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Phony PPL @duo MUSIC EXCHANGE(20231011)

 豊かな音楽的享楽へいざなう、躍動するファンキー・グルーヴ。

 以前は“西のジ・インターネット、東のフォニー・ピープル”とも称されたこともある、米・ニューヨーク・ブルックリン出身の5人組、フォニー・ピープルが2019年以来に再来日。ソールドアウトとなった渋谷・duo MUSIC EXCHANGEのフロアには、彼らが織りなす自由闊達で柔軟性に溢れたグルーヴと、それに感嘆し、悦びを吐露するオーディエンスが一体化したジョイフルな光景に包まれた。

 初来日となった2019年は渋谷・WWW X公演(→「Phony PPL@WWW X」)とフジロックに出演した彼ら。当時と同じく、マンハッタン音楽院出身のリード・ヴォーカルのエルビー・スリーをはじめ、この日はヤンキースの“NY”キャップを被ったギターのイライジャ・ローク、スキンヘッドで後半は上半身裸で演奏を続けた、バンドのヴィジュアルアーティストでもあるベースのバリ・ベース、メンバーの中では大人しい佇まいで、アレンジメントの多くを手掛ける鍵盤のエイジャ・グラント、細身の長身のドラマー/パーカッショニストで、ズールー・ネイションのDJジャジー・ジェイを父にもつマット・“マフュー”・バイヤスというファンキー・クインテットは、2023年も健在だ。

 今回は、バンド名と“euphonious”(=音が心地よい、耳当たりが好い)を掛け合わせ、ファンやリスナーと自身を繋げる(“You / Phony / Us)”という意味も重ねた、11月リリースのアルバム『ユーフォニアス』の名を冠した世界ツアー〈EUPHONYUS INTERNATIONAL TOUR〉の一環としての来日。duo MUSIC EXCHANGEは前回のWWW Xと同様にスタンディング時でキャパシティ700名で、この日は2階席も一般開放。横長のステージで距離感が近いのは良いのだが、上階のO-EASTを支えるために仕方ないとはいえ、何といっても巨大な3本の柱が非常に邪魔。特にフロア中央部に走る2本の柱が視界を遮り、中央より後方に位置取りするとどの角度からでも何かしら遮られてしまう。それゆえ音響面での影響も少なくない。集客がそれほどないリラクシンなイヴェントでは問題ないが、本音を言えば、ジャミロクワイのジェイ・ケイがプロデュースした洒落たフロアということと、柱より前に陣取ることが出来れば視認性も高く、体感もアップする以外は、ポジティヴな要素があまり見つからないのが実情だ。2019年のフジロックでのパフォーマンスも称賛され、人気も上昇しているはずだから、ソールドアウトとなったこともあり、もう1ランク上のキャパシティの会場でも問題ないのではないかと思う。

Phony PPL〈EUPHONYUS INTERNATIONAL TOUR〉

 という個人的なネガティヴな要素はいくつかはあったが、ショウが始まったみれば、それらを瞬時に吹き飛ばすパフォーマンスで、フロアを埋めたオーディエンスをロックし続けた。出囃子的に用いた「スペシャル・ワン」のBGMを経たのちの「ノーホエア・バット・アップ」で幕を開け、アンコールの「サムハウ」まで、エネルギッシュでアグレッシヴなパフォーマンスを展開した。

 元来は、たとえば、シカゴ出身でニューヨークを拠点としているジェシー・ボイキンス3世近辺(自分も愛聴している『ラヴ・アパラタス』あたりが顕著)のネオソウルやエクスペリメンタル・ソウル/R&Bマナーの作風のインストゥルメンタルなども発表してきたフォニー・ピープルだが、前回来日時の2019年にはネオソウル/フューチャーソウル・マナーを軸としたアルバム『モザイク』をリリースし、新世代ネオソウル/R&B的なバンドとしてジ・インターネットとの比較もされていた。とはいえ、同作ではネオソウル/フューチャーソウルの枠に留まるばかりか、ジャズ、ヒップホップなどのブラック・ミュージック系のみならず、70年代風ロックやラテン、ソフトロック、フォークなどにも手を伸ばすなど実験精神にも富んでいた。

 今回も、イレギュラーなリズムのドラミングながらも軽快なテンポを刻み、ロッキンなギターフレーズとともに祝祭感と開放感が発露するAORマナーも見え隠れした「サムシング・アバウト・ユア・ラヴ」をはじめ、ハイハットとディープなベースを刻むミディアム・テンポのトラップビートが走るなかで、レイドバックしたAOR/フュージョン・ポップス風味も漂う、本ステージでも“Oh~, I(Ah~), nananna oh”のシンガロングを生んだ「ビフォア・ユー・ゲット・ア・ボーイフレンド」、マット・“マフュー”・バイヤスのジャズに重きを寄せたテクニカルかつ程よい厚みのドラムソロから雪崩れ込むように始まった「クッキー・クランブル」などの『モザイク』収録曲ほか既存曲を組み込みながら、この時点ではリリース前ながらも新作アルバム『ユーフォニアス』からも半分の6曲をプラス。さまざまなジャンルを往来しながらも、あくまでもポップネスを削ぐことのないエモーショナルなステージを完遂してみせた。

 音楽性において多様性を有している彼らだが、それがステージになるとさらに変則的(というよりも、面白いことをやってみようぜ精神と言おうか)なアレンジを施してくるから、その意外性ある着想やケミストリーに驚く。そして、それらが独りよがりの実験性ではなくて、バンドとオーディエンスを含めたフロアのすべてが心躍るジョイフルなムードで纏め上げられているから見事だ。
 前述の「クッキー・クランブル」は音源ではヴィンテージモダンなロック・ワルツ風とも感じられる楽曲だが、ステージでは原曲の幻想性を帯びたジャズ・ヴォーカルのような洒脱なアプローチで展開したかと思えば、そのアウトロではイライジャ・ロークのハードロック/ヘヴィメタル・マナーのソロギターをフィーチャーして、対照的な色相ともいえるアレンジに。最後に最前列の観客にピックを渡して、キメの“ジャーン!”というダウンストロークをしてもらうサプライズで、フロアを大いに沸かせていた。

 全編にわたりエモーショナルなヴァイブスを繰り出していたが、エイジャ・グラントのメロウなキーボードソロをフィーチャーし、メロウなエレピサウンドを響かせたロマンティックな「ホワイ・アイ・ラヴ・ザ・ムーン」や、アンコールでエルビー・スリーとイライジャ・ロークがアコースティック・デュオ風にパフォーマンスした「サムハウ」の前半部分などでは、歌を聴かせ、音に浸らせる空間も創出。ひたすら狂奔だけに軸を置かず、洒脱性を失わずに貪欲に多彩なジャンルを渡り歩くオルタナティヴな先進性は、クラシック音楽の素養や高いテクニカルなスキルを持ち、ジャズ・シーンやザ・ルーツ、エリカ・バドゥ、ジル・スコットらとのコラボレーションなどをはじめ、さまざまな音楽性に触れて培ってきたエレガントなエッセンスが土壌となっているのだろう。そしてそこで終わらずに、まずは音楽的快楽を享受したいという信念が、フロアを興奮の渦に巻き込むためのアレンジやパフォーマンスに結びついている。中盤に披露された「エンド・オブ・ザ・ナイト」は、2019年のWWW X公演では初来日公演の冒頭曲としてフロアのヴォルテージを上げるためのファンキーなヒップホップ・ダンサーとして機能させたが、本公演では演奏前にエルビー・スリーが何度も「セクシー」と叫びかけ、コール&レスポンスでヴォルテージを高めながら、ジャズ・ファンクをベースにしたソフィスティケートなグルーヴで踊らせるアレンジに。挙げればキリがないが、こういったアレンジワークやプロデュースにも、前回からの成長やパワーアップがヒシヒシと伝わってきた。

 やはり一番沸いたといえるのは、「ファッキン・アラウンド」だろうか。ミーガン・ジー・スタリオンが客演するラップ・パートはないものの、アウトロのドラム、ベース、ギター、キーボードが一体化し、昇竜のごとく天高く渦巻いていくファンキーなグルーヴは白眉。心地よいヴァイブスを確認する隙間なく、フロアが瞬時にオーディエンスの恍惚に達した歓声で支配されたことが、その証左といえるだろう。

 多種多様なジャンルの音楽に触れながら、実にフレキシブルに振る舞うのがフォニー・ピープル流で、時に音楽の“サラダボウル”的でもあり、音楽の“ミックスジュース”的でもあるか。楽曲やステージで発露させるに相応しいテクニックやアイディア、センスに長けた具現性も優れている。そして、なによりも、ライヴでは、ところどころに音楽的な遊び心を忍ばせながら、音に没頭、心酔させ、一心不乱に“感じる”愉悦へといざなってくれる。

 どのようなジャンルでも、ブラック・ミュージックという下地を敷きながら、ポップスとしても昇華させる手腕と、一体となり享楽に浸るべしというアティテュードで快楽を呼び込んだ90分。早くも次の来日へ期待を抱いてしまうのは、このステージを体感したオーディエンスならば、不可避な感情となったはずだ。次もさらなる成長と躍進を遂げてくることは間違いない。出来ればより大きな舞台で、予測不能なグルーヴを体感したいところだ。

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<SET LIST>
00 INTRODUCTION ~ Special One.(BGM)
01 Nowhere But Up (*E)
02 take it easy. (*E)
03 love just died. (*E)
04 Either Way.
05 somethinG about your love.
06 dialtone. (*E)
07 HelGa.
08 don't knock & common courtesy. (*E)
09 End of the niGht.
10 Fkn Around (Original by Phony PPL feat. Megan Thee Stallion)(*E)
11 Before You Get a Boyfriend.
12 Drum Solo ~ Cookie Crumble. (including outro of guitar solo)
13 Keyboard Solo ~ Why iii Love The Moon
≪ENCORE≫
14 Somehow.(acoustic ver.)~ Somehow.
EXIT BGM "Din Daa Daa (Original US Mix)" by George Kranz

(*E):song from album "Euphonyus"

<MEMBERS>
Elbee Thrie(vo)
Elijah Rawk (g)
Bari Bass(b)
Matt "Maffyuu" Byas(ds)
Aja Grant(key)

Phony PPL

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【Phony PPLに関する記事】
2019/01/17 Phony PPL@WWW X
2023/10/11 Phony PPL @duo MUSIC EXCHANGE(20231011)(本記事)



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