【133.水曜映画れびゅ~】『市子』~『ある男』と被る物語~
『市子』は、12月8日から公開されている作品。
釜山国際映画祭ジソク部門に出品された映画で、杉咲花が主演を務めています。
あらすじ
プロポーズの翌日に…
長谷川義則は、恋人の川辺市子と同棲していた。
ある日、義則は市子に結婚を申し込む。突然のプロポーズだったが、市子はとても嬉しそうだった。涙を流しながら、市子はプロポーズを受け入れた。
しかし…
その翌日に義則が家へ戻ると、市子は消えていた。
『ある男』と被る物語
本作の原案は、監督を務めた戸田彬弘自身が主宰する劇団チーズtheaterの旗揚げ公演として上演した舞台「川辺市子のために」。キャストに杉咲花と若葉竜也を迎えて、素晴らしい傑作に仕上げられています。
紡がれる物語は、プロポーズ翌日に突然失踪した川辺市子。
「彼女はなぜ消えたのか」
その真相を探る過程で、恋人の長谷川義則は思わぬ彼女の過去を知っていきます。
・・・
本作は、別の日本映画と非常に被る部分がありました。
平野啓一郎の同名小説を映画化した作品『ある男』。昨年の日本アカデミー賞で最優秀作品賞を含む8冠を達成したとともに、キネマ旬報ベストテン第2位にも選ばれた秀作です。
こちらの作品は、急死した夫の過去を探る物語。
死後になって夫の名乗っていた谷口大祐という名前が全くの別人であったことが発覚。そこから「なぜ谷口大祐は谷口大祐と名乗っていたのか」が明らかになっていきます。
詳しい話は省きますが、本作『市子』の川辺市子も、『ある男』の谷口大祐も、別に犯罪に手を染めたなどという理由で"本当の自分"を隠していたわけではありません。むしろ名前を変えたり、身分を変えたりして身を偽ることで、彼・彼女は"本当の自分"になろうとしていたのでした。
背景にある社会問題
その背景には、現代社会に潜む問題があります。
『ある男』は死刑囚の遺族としての問題が、『市子』では非嫡出子と医療的ケア児の問題が描かれています。
それらの問題に関して、これらの映画が完全に向き合って描かれているかと問われれば、自信を持って「そうだ」とは言えません。やはり映画はエンターテインメントなので、多少現実とズレている部分はあるかもしれません。
それでも映画で描かれている内容が全くの現実ではないとも思います。多少誇張されていたとしても、矮小化されていたとしても、似たような境遇で苦しんでいる人はいます。
そういった問題に目を向けさせる本作のような作品は重要です。そして昨年の『ある男』のようにしっかりとした評価が下され、多くの人に認知していただきたいと思っています。
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