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「想像するちから」を学ぶ

私は、学生時代に知的障害のある人たちと出会い、それ以来、彼らの生活を支え、思いを実現するために行動することをキャリアの真ん中に置いてきた。

日本に帰国後は、「障害のある人が働く」ことに焦点をあてながら活動をしてきたが、その中で、私は「知的障害のある人の可能性や強み」を一般社会で暮らす人たちにどのように伝えていけば良いか、と考え続けてきた。

まさに、「障害のある人の『成長ステップ』見える化プロジェクト」は、その問いへの答えを形にしたプロジェクトであった。無意識の偏見によって、過小/過大評価することなく、フラットに、目の前にいる一人の人を感じ、考えて欲しいと思ったのだ。心理学の知見を借りながら、人を可視化することが、私たちの成長を促す有効な一手であることに間違いない。しかし、私が感じてきた「知的障害のある人の可能性や強み」は、目で見えて、数字で語れるようなものでもなかった。

そこで、私は、Motivator構想を掲げて、社会にある”障害”を超えていこうと奮闘する人の声を直接、社会で暮らす人たちに届けて(対話企画「障害者雇用のここっておかしいよね?」)、私が感じてきた「知的障害のある人の可能性や強み」を広く発信したいと思ったのだ。

そんな私の想いに応えて下さる形で、ソニーグループの皆さんがダイバーシティイベントにお声をかけて下さり、ダウン症の娘さんと生活する女子ソフトボール会のレジェンド、宇津木妙子さんとのご縁も繋いで下さった。

Motivator構想は、知的障害に限らず、社会にある”障害”を超えていく人の語りを言語化してきたのだが、その中で、知的障害のある人との関わりから「人間の本質」を学ばせて頂いたと仰る方々に連日、出会った。
もちろん、みなさん福祉施設の職員ではない。ビジネスパーソンであり、縁あって、障害者福祉/雇用領域に関わることとなった方々である。

「人間の本質」って何?

かなり大きな問いであることに間違いないけれども、私は下記の本に出会って、心の底から感動した。松沢哲郎氏が、チンパンジーと人間の比較研究(比較認知科学)から人間の本質を説いた本である。私がこれまで20年間、「知的障害のある人の可能性や強み」を今の社会に沿う形で伝えていくために探し続けてきた1つの答えであると思ったからだ。

「想像するちから」をもつことが人間の本質である。想像するちからがあるから、相手の心を理解し、今ここにないものを思い浮かべて他者に伝えようとする。そこから言語も芸術も生まれた。(松沢 2018)

松沢哲郎(2018)「分かちあう心の進化」岩波新書https://www.iwanami.co.jp/news/n28337.html

前述のダイバーシティイベントでは、ファシリテーターの森さんから、「様々な反応を示してくる知的障害のある子どもたちを前に、もう嫌だと思ったことはなかったのか?」という質問を頂いたが、私の答えはきっぱり「NO」であった。様々な反応を示してくる子どもたちの裏にある本当の心を知りたかったからだ。その心を「想像すること」が私の興味であり、私にとって最大の”好き”なのだ。つまり、私は、知的障害のある人と出会い、私自身の「想像するちから」をフル活用する、とても貴重な機会を頂いてきたのだ。その力によって「障害がキャリアを積む上で”障害”にならない社会」を作ってみたいと未来の世界を想像し、希望を持つことで、創造するパワーを知的障害のある人たちから与えられてきたのだ。

まさにMotivatorである。

「知的障害のある人の可能性や強み」は何か?

今の私は、はっきりと、120%の自信を持って言える。

私たちが、普段の生活の中で発揮 ”できず” にいる「想像するちから」を、思わず、発揮 ”したくなる” 瞬間を与えてくれる人たちである。

そう。

知的障害のある人こそが、先が見えず、世界各地で分断が顕著な社会の中で、これから先、私たちにどんな行動が求められるのかを「想像するちから」を授け、鍛えてくれる最高のパートナーなのである。

知的障害のある人は、単純作業しか出来ない??

いやいや、違う違う。最高のクリエイティブパートナーだ。
少なくとも、私は、彼らと過ごす時間があることで、私のクリエイティビティが発揮されると感じているし、結果として、今の私がある。

そして、この記事が生まれたのも、知的障害のある人たちが暮らす栃木県の福祉施設に見学へ伺う機会を頂いたからだ。井深大さんが設立した社会福祉法人「希望の家」である。次回の記事では、日本を代表する経営者である井深大さんの障害者福祉・雇用への想いに触れて感じたことを書き綴ってみたいと思う。


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