見出し画像

私の「ハヤカワ文庫」愛について その1

私は大学を出て、映画配給会社に入社し、1年で転職した。その後堅気の世界にいるが、あの時もう少し頑張って映画会社に居たら私はどうだったかと考えることもあり、それとともに「本」がそれほど好きだったのなら、出版社に就職すればよかったかな、とも思ったりする。
当時文系学部に在籍していた私は、岩波書店やみすず書店など、学術系出版社に就活してみるかとは思ったが、その際、現在まで愛してやまない「早川書房」をまじめに考えたことはなかった。しかし、その後30年余り、私の人生を振り返るに、「記念受験でもいいから早川書房に就職を試みればよかったのに」と思う。(笑)

ハヤカワ文庫で過ごした思春期

1980年代に地方都市に住んでいた私は、田舎の少年らしい生活をし、大した娯楽もない街で、本の立ち読みとロボットアニメを趣味にしていた。今では、できるだけ分厚い本が読みたい!と思う長編派なのだが、当時少年の私はまだまだ少年文学から、もう少しだけ背伸びした本が読みたい年ごろだった。しかし、厚い本は苦手で、難し気な本はまだ内容が理解できなかった。まだコバルト文庫のようなヤングアダルト向きの本が少なく、子供向けの本と大人の本がきっちり分かれていた時代と思う。
そこで、私がハマりだしたのが、アクション映画やSF映画の原作をカバーしていた、ハヤカワ文庫だった。「●曜ロードショー」で流れて面白かった映画の原作を読んだり、先に原作を読んで映画を見に行ったり、という”比較研究”のようなことが私の趣味になったのだ。映画でストーリーが分かっているので、読みにくいということはないし、少年が活字に慣れるためのいい土台になったと思う。考えてみれば、この”比較研究”の真似事はその後の私の勉強その他の役に大いに立ったと思うし、そして何だか「大人になる」ことをハヤカワ文庫で学んだ気がするのだ。
(勝手な憶測だが)当時、洋画の原作は現在のように多くの出版社がカバーするという時代ではなく、ハヤカワの独壇場だったのではないか、と思わせるほど、あの映画、この映画、多くの映画がハヤカワによってカバーされていたと思う。SF分野でも、当時創元もサンリオもSFをやっていたが、どうもそれらは少年には小難しく、ハヤカワこそが私のようなガキを惹きつける鉄板だったという印象だ。
以下、当時、ぼろぼろになるまでと言えるくらい読みふけった作品を紹介したい。(すでに所有しておらず、かつ現在は売られていないものばかりだ)

シェーン 著:ジャック・シェーファー

言わずと知れた西部劇の名作「シェーン」の原作。薄い200ページ弱の中編。映画版も本当に素晴らしいが、原作はジョーイ少年ではなく、確か大人になったジョーイ少年の目から描かれ、より客観的で落ち着いた感じで進むものの、概ね映画とストーリーを一にしていたと思う。映画のジョーイ少年と同じような視点で、私もシェーンのような、孤独な、しかし正義のアウトロー(?)に魅せられてしまい、原作とは関係ないが、映画のシェーンが使用していたコルトのモデルガンまで買っていた。(やくざものの高倉健に憧れるような感じなのだろう)記憶にあるのは、映画のシェーンと異なり、原作のシェーンは黒装束で、いかにも殺し屋という風情であった点くらいだろうか。映画ではより「善人感」を出すため、白っぽいベーシュの装束に変えられている。

スターウルフシリーズ 著:エドモンド・ハミルトン

ウルトラマンごっこをしていた少年が、いきなり映画スターウォーズを観てにわかSFファンになってしまい、その流れで手にした作品群。当時、NHKでは同じ著者の「キャプテンフューチャー」がアニメ化されていたが、品行方正なキャプテンフューチャーよりも、私はこちらの主人公ケインにずっと好感を持っていた。
ケインはならず者の宇宙人で、姿は人間だが確か5Gとか8Gとか地球よりずっと重力の大きな惑星出身であるため、地球では人間より運動能力が優れ、活躍する・・・。しかし彼は人間に紛れて生きる身であるため、常に孤独である。(私の憧れるヒーローはワンパターンだ、、、)
その後、日本で実写テレビ番組化されるが、これは原作とはかなり異なりお子様向けであった。振り返ってみると当時、私にはアーサー・C・クラークなど本物の科学SFはどうも理解できず、これくらい(失礼)の小説がSFへの入口になってくれたということだと思う。

小ネタだが、イタリア映画「僕の瞳の光」(原題:LUCE DEI MIEI OCCHI)で地方出身の孤独なハイヤー運転手の青年がこの「スターウルフシリーズ」の小説を好んでいて、夜の街を車で流しながらモノローグで小説の一節を読み上げているというシーンがある。世界中でケインの孤独感は共有されていたのだ!(以下動画も参照)※ちなみにこの青年主人公は地方から出てきて、都会で疲れ切った冷たい女と知り合い、また社会の荒波にもまれて成長していく・・。

イタリア映画「僕の瞳の光」
https://www.youtube.com/watch?v=r3RGKPXGAv0

小さな恋のメロディ 著:アラン・パーカー

やっぱりお前はガキだな、という2冊に続いて、少年も恋愛について学んでいたということを確認しておきたい。

当時ませた同級生などは、エロ本の代わりに五木寛之の「四季奈津子」などを読んでおり、私もエッチなところだけ読ませてもらった記憶があるが、じつは私はまだまだ少年で、こうした本の方がずっと好きで繰り返し読んだ。今初めて知った、この本は映画のノベライズだったんだな。(監督=アラン・パーカー)小学校あたりから憧れる女の子がいる子供だったが、周囲や親の反対があってもそれに負けず、男女が結ばれるってことはある、私もそうなるんだと思っていた。こんなかわいらしい映画だが、親のいる家で見るのは恥ずかしく、映画を観たのはずっとあとだった。

今日はこんなところにしよう。私が言いたかったことは、「早川書房よ、ありがとう!」である。(続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?