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内省の三行

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ランダム生成された写真をお題に、地の文の心理描写3行を書く練習をします。写真は https://picsum.photos さんから。
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記事一覧

2/12

2/12

 喰われて死ぬのかな、という本能的感覚と同時に、なんだかみすぼらしくてかわいそうだという理性で、目の前の野良犬を見ていた。
 深い雪に長靴を打ち込んで行くように、ぐぽっ、ぐぽっと前に進む。
 弥山が犬の目線に合わせてしゃがみ「どしたの」と微笑みかけると、犬はしょぼくれたまま、所在なさげにうろうろと肉球の跡を増やした。

2/11

2/11

 この霞の先には何も無い――本能が悟っていた。
 足がすくむ。一歩踏み出す。
 わずかな砂利がぽろぽろと、崖下にこぼれ落ちてはすぐに消えていた。

2/10

2/10

 え!? ホームボタンある!? 懐っっつ!!
 ……と思いながら、宝物をすくい上げるように両手でスマホを包む。
 そう、これは、犯人の過去の写真を大量に載せた夢のタイムカプセル。
 

2/8

2/8

 合宿そのものは楽しかった。
 予想どおり癖の強めのひとが多かったけれど、それも含めて非日常体験だった。
 問題は、直美の与り知らぬところで、全く異なるプログラムが進行していたことだ。

2/6

2/6

 ふざけているとしか言いようがなかった。唯一の証拠写真がこれだなんて。
 なに? この遠景とベンチの位置から撮影場所を特定しろってこと? 自転車の車種で犯人を絞り込めとでも言いたい?
 慣れない酒を飲みくだをまく弥山は、据わった目で枕辺の顔を見る。
 

2/5

2/5

 字であればなんでもいいとさえ言った。
 まごうことなき濫読派である。
 枕辺はもじゃもじゃの頭を掻きながら「いつからうちの弥山はこんなになっちまったんだ」と嘆く。
 しかし、その言葉に弥山が反応することはなく、一点を見つめたまま超速でページをめくっていた。
 字、なんでこんな落ち着くんだろ……やっぱりあの妙なきのこを食べたからかな。
 思考の隅で、派手な紅色のきのこが溶ける。
 麻薬みたいな成分

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2/4

2/4

 日の出寸前、海の向こうに黎明を感じながら、大きく息を吸い込んだ。
 冷たい空気が一気に入って、気管支から肺胞までも、氷の粒を取り込んでしまったかのように思える。
 弥山は細く息を吐きながらしゃがみ、無線を耳に突っ込んで、相手の動向を探る。
 

2/3

2/3

 虹なんかCGでいくらでも作り出せるこの世界で、いまこの街が雨上がりだということを、どうやって証明すればいいのだろう?
 弥山は空を仰ぎ、故郷に置いてきた恋人のことを想った。
 虹が架かったんだよという、そんな些細なことも共有できないし、ぴょこぴょこ跳ねて小さく拍手しながら喜ぶ姿も見られない。

2/1

2/1

 いつだったか君は、ゴツイ感じのサブウーファーを買いたいと言っていたけれど、結局普通に互換性重視で選んだんだね。
 そんなことも知らなかった五年の空白は長すぎて、もっと前に連絡してみていれば何か違ったんじゃないかなんて、思いがけない角度から後悔がよぎった。
 家主に見捨てられてしまった、かわいそうなスピーカーを撫でる。
 

1/31

1/31

 それはいかにも、神にも閻魔にも見放されてしまったような、干からびた土地だった。
 本当にこんなところで、取引が行われるのか?
 身を隠せるような場所もなく、弥山は心細く思いながら、その場にしゃがんだ。

1/30

1/30

 明けの空、針葉樹の向こうに、うっすらと日の出が透けて見える。
 朝だ、と、心が震えた。
 状況はなにも変わっていないのに、日が昇るだけで、なんとかなるんじゃないかという気がしてくるから不思議だ。

1/29

1/29

 国民集会の様子だとして提示された写真は、いかにもプロパガンダの典型というような、不自然に活気が強調されたものだった。
 競技場の写真を、じっと見る。異様に彩度が高く鮮やかで、しかしピントや焦点といった類のものがなく、奥行きが存在しないような平べったい印象を受けた。
 この写真を見せれば他国を欺けると信じているという、そのことが信じられない。
 仮に独裁者が『この写真を撮れば諸外国に繁栄をアピール

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3/31

3/31

 放課後、通り雨が過ぎるのを待つ昇降口で、友達と大喧嘩してしまった。
 ビアンカフローラ戦争だ。
「独身介護まっしぐらの幼馴染みを見捨てて、ふらっと立ち寄った街のよく知らない金持ちの女と結婚するのか」と憤る僕に対して、友達は「1回レヌール城を探検しただけの仲を幼馴染みと呼び、他人の金で結婚式を挙げるのか?」と呆れる。
 雨はとっくに止んで、曇り空は太陽光を帯び、くすんだ黄色になっていた。

3/30

3/30

 海の表面と海底が同じものだなんて、ちょっと信じられないな。
 波はささくれの往来だし、海中はうねりだし、海底は静そのもののように思う。
 ぴたりとして動かない、空気のない、全てが水に満たされた場所?