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関心軸に注目する~大学によるデータ分析に基づいたファンドレイジング戦略

~営利・非営利のソーシャル事業の成長が、社会課題の解決を加速させ、より良い社会を築くと信じて執筆~

今回は、カナダにある大学が行ったファンドレイジングの事例を紹介したいと思います。

ウォータールー大学
開学当初から数学とコンピューターサイエンス分野に注力、英国のQS世界大学ランキング(2015年)では、開校約60年の若い大学でありながら数学とコンピューターサイエンスのカテゴリーでそれぞれ20位と24位。
2013年の大学収入は8億8千万カナダドル、そのうち最大の割合を占める寄付金と競争型研究資金は3億9千万カナダドルを獲得。
(Wikipediaより抜粋)

大学のアラムナイ担当クールマン氏は、下記のマトリクスを作成して、戦略を考えたようです。この考え方が、大学だけでなく、寄付を集める多くの組織においても、参考になる部分が多いのではないかと思いました。

191009_ウォータールー大学のマトリクス

1.マトリクスの見方

横軸は「大学への関与度」、縦軸に「富裕の度合」を表しています。
各セグメントについては以下になります。

「① リーダー」は、大学に関わる活動に熱意を持ち、金銭的に裕福な生活を送れる層

「② ポテンシャルリーダー」は、金銭的に裕福である一方で、リーダーに比べて大学への関与に積極的になれないと思っている層

「③ チャンピオン」は、大学に関わる活動に熱意を持っているものの、金銭的には「リーダー」に比べて高くはない層

「④ スリーパー」は、熱意も金銭面も上記3層に比べて高くない(または不明な)層

2.マトリクスを通じて分かったこと

「① リーダー」と「② ポテンシャルリーダー」へインタビューを行ったところ、大きな違いが見えてきたそうです。それは、両層ともに、個別化されたコミュニケーションを望み、寄付によってどのような変化を生み出せたのかを理解したい、という思いを持ってることは共通しています。

しかし、「① リーダー」はそうした思いを満たされいる一方で、「② ポテンシャルリーダー」は満たされていないことがわかりました。

つまり、寄付した金額だけで判断した場合、高額寄付の可能性のある層を取りこぼしていたことに気が付いたのです。

また、クルーマン氏は「寄付の『金額』を制御することはできません。しかし、『関係』を前進させる方法を制御することはできます。このモデルは、人々を左から右へ、特に大学との繋がりをより強化することに焦点をあてる戦略です」と述べてもいます。あくまでも、卒業生との関係構築を目的に、このマトリクスを活用し、その結果として、寄付金額が増えていったのだとも考えられます。

191009_ウォータールー大学のマトリクス_2

3.マトリクスの作り方

「関与度」の算定
「大学に関心がある卒業生は誰か」。この疑問に答えるために、大学は"調査票"を卒業生に送付することで、「大学を他の人に推薦するかどうか」「もっと関与するしたいかどうか」など質問への回答を集めました。

回答数は10,000人にのぼり、それ基づいて関与度を0‐100の幅で点数化しました。次に、回答を得られなかった卒業生に対して、回答を得られた卒業生の情報をもとに比較して、類似点が見られた場合は同等の点数を付けました。一方で、類似点が見られなかった場合は、大学が所有している情報が多い場合は、高い点数をつけました。これは、姓名とメールアドレスだけがかわっている人と、それらに加えて住所や勤務先などの情報までわかっている人の方が、これまでに情報を得られる接点が多くあったり、大学に期待して情報を提供しているのではないか、と予想して行いました。

「富裕度」の算定
ウォータールー大学の場合は、税の申告、住宅価格など外部のデータとを組み合わせて算出しました。もし日本で行う場合は、例えば住所を基にした地価データが販売されているので、それを組み合せるなどが考えられます。


最後に

クルーマン氏は「スタッフの時間の50%を②‐④への取り組みに費やす。残り50%を①との個人的な関係構築に費やすようにした」と言い、このリソース配分は大学以外の小さなNPOにも効果があるとも述べています。
大切なことは、分析した上でリソースをいかに効果が出そうな箇所に配分することでもあると言えます。

~営利・非営利のソーシャル事業の成長が、社会課題の解決を加速させ、より良い社会を築くと信じて執筆~

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