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上野千鶴子さんが嫌いだったこと

わたしは若い頃ジェンダー(女性学)が嫌いだった。母校の精華大学には当時、ジェンダーの祖 上野千鶴子さんが教授として在籍していたけれど、上野さんも嫌いだった。

父は「男女平等」を重んじる人で、母とは等しく家事を分担し、共働き。わたし達姉妹にも「学問が大事」「〝女っぽさ〟で媚びる必要はない」と教えた。

一方で…。
娘たちが支離滅裂なおしゃべりをしていると、父は「で、結論はなんだ!」とさえぎった。

「いちいち怒らないでよ。時には適当にしゃべりたいよ」と言葉を返すと「『怒るな』ってことは、お前達を見捨てるってことだぞ!?」と怒鳴った。

父とのやりとりに困って微笑むと「笑って誤魔化すな!」と叱り飛ばされた。何となくその場のムードを和らげたくて微笑んだこと。それを叱られて「わたしは今、女を使って媚びたのかな…」と傷つき、悩んだ。

そんな高校時代を経て入った京都精華大学に、わたしは強いカルチャーショックを受ける。

当時の精華大学は(少なくともわたしが所属したサークルは)とんでもなかった。酒とロックとケンカで溢れていた。男子の多くは女子とヤることばかり考えていて、道行く女子の美貌とおっぱいの大きさを、日がな一日チェックしているように見えた。

酒浸りで、ケンカっぱやく、そろいもそろってエゴイスティックだった。女子も大して変わりはなく、男の野性味と、力と、セクシーさをいつも品定めしていた。

クソがつくほど真面目に生きてきたわたしには、目を見張るばかりだった。

わたしときたら、構内じゃいつも(なんなの?あんた達バカなの?)と言わんばかりに澄ましこんでいた。

村上龍の『コインロッカーベイビーズ』をベンチに座って読んでいると「読書好きなんだね。オレも『ノルウェイの森』読んだことあるよ」そう声をかけてきた先輩に「それ、村上春樹ですよ」と答え、仏頂面のまま立ち去ったこともある。

口論する男子二人の、会話の矛盾点をあげ連ね、論破したこともある。今思えば彼らは、酒の肴に会話を楽しんでいただけだったろうに。

本当に、当時のわたしは「嫌なヤツ」だった。感じが悪く、ツンケンしていて、取りつく島もなかった。

でも、そんな鉄仮面の下でわたしは、ほとんど恋とセックスにしか関心を持たない彼らに、完璧に魅了されていた。彼らは美しかった。少なくとも、自分の本能に真っ正直であると言う意味で、「命の聡明さ」と呼べるような魅力を強烈に感じた。

実際、このハレンチきわまりない場所は、幾度も「思考を超えた気づき」を与えてくれたのだ。その一つが、父が教えた男女平等の残酷さだった。

彼が求める男女平等とは『女も男になる権利』の主張だった。


父の唱える男女平等とは、女性性の受け持ちである、気分・ムード・愛らしさ・受け身であること、そういったものを「媚(こび)」と定め、男性性が司る、理論性を保つことこそが「人になること」だった。

これを言語化できたわけじゃない。たぶん本能的に悟った。そうして19才のわたしは、遅すぎる父への反抗期を迎えた。父に猛烈に反発した。

わたしは一体なんなんだ!すっかり自分の中の女性性を殺し、愛想も無く、理屈で人を叩きのめし、思いやりの欠片も持たない、どこまでも感じの悪い人間になってしまった!

でもだからって、大学の野蛮な人たちと酒池肉林を楽しむ気にもなれず(なんなの?あんた達バカなの?)のスタイルを崩すこともできない…。

ようするに当時のわたしは、自分の中の『女』にダメ出しした父が嫌いで、その元になったジェンダーも嫌いで、性と本能礼賛の、肉・下・エロティシズムに偏った〝陰〟が過剰な仲間の中に、ダイブすることもできずにいた。

それでも、その頃のわたしは結構、魅力的だったと思う。

わたしを美しく居させたのは、たぶん「若さ」のせいだったろう。いや、「青さ」と言った方が良いかもしれない。ようするにわたしは、自分の女性性を受け入れられず、かといって男性性にはうんざりし、どちらの性にも力を与えることが出来ずにいた。

とにかく、女でも男でもない「青い子ども」であろうと必死だった。

苦労したのは大学を出てから。内なる男性性も女性性も嫌悪し、子どもで居続けようともがく姿が美しいのは、実年齢が「子ども」のうちだけだ。社会に出て、30才を超えても、わたしは自分の中の二つの性を、持て余していた。

いつの頃からか、分からない。

少なくとも…西洋占星術を学んだ今。内なる天体たちの女性ラインと男性ラインの存在を知り、わたしは自分の中の「女性性と男性性」を受け入れた。それを言語化し、生きることに活した。

天体の男性ライン : 水星・火星・天王星
天体の女性ライン : 金星・木星・海王星

『内なる性』にヒステリックで無くなったわたしは、上野千鶴子さんが詠んだ東大の女子学生への祝辞に、感銘をうける。女性が、現実社会で受けている不当な扱いに、異議を唱えることの尊さが分かる。

長い人類の歴史で、女性の中に在る「男性性」が、在ってはならないとされた時代。ジェンダー(女性学)を作った上野千鶴子さんという勇気ある人に、尊敬の気持ちが湧いてくる。

それでも、占星術家であるわたしは思うのだ。

社会問題になった、東京医科大における女子学生への差別。この根底にある課題は、わたし達日本人が「男は内なる女を否定し、女は男になる権利を求める」限り、解決しない。本当のジェンダー(女性学)とは、男も女も、内なる女性性の権利を守り(内なる男性性と等しく)自分という本質を、愛することだと思うのである。



#上野千鶴子 #ジェンダー #東大祝辞



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