(テスト)染谷将太、織田信長の迫真の演技

(大河ドラマ『麒麟がくる』第18話「越前へ」より、染谷将太演じる織田信長の傑作シーン文字起こし。)

登場人物
織田信長…演:染谷将太
織田信勝…演:木村了

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織田家中に謀反の兆しあり。
家臣の柴田勝家からその知らせを聞いた織田信長は一計を案じる。

数日後、病に倒れたと聞いた信長の弟・信勝が、兄の居城・清州城へ訪ねてくる。
信勝の手には、美濃の白山(いまの岐阜県)で手に入れた、万病を治すという湧き水が入った水差しが抱えられていた。

登城して、信長と面会する信勝。病が重いと聞いていた兄は、身体を起こして出迎える。

「病が重いと聞き及びましたが、ご息災のようにお見受けします」

流暢に見舞いの言葉を並べる信勝に、信長があっけらかんと告げる。

「病というのは偽りじゃ。」

「は?」

「そなたを呼び寄せ、討ち果たすために、偽りを申した」

信勝、ここで視聴者に聞こえるくらい大きな音を立てて、生唾を飲み込む。

「しかし、そなたの顔を見てその気は失せた。そなたを殺せば、母上がお嘆きになる。母上の悲しむ顔は見たくないのじゃ」
にこやかにほほ笑む信長は続ける

「子供のころより、そなたは母上にかわいがられた」
「色白で素直で賢く、だれもがそなたをほめそやす」
「そういうそなたを、母上はいつも手元に置かれた。今もそうじゃ」
そこまで話し、信長のほほ笑んだ顔がアップされる。

「わしはそれが口惜しかった」

「わしは、そなたに比べると醜い子だった。色が黒く、母上のお好きな和歌も詠めず、書も読まず、犬のように外を走り回り、汗臭い子じゃと母上から遠ざけられた」

「あるときわしは、そのことに気づいた」
「そなたの美しさ、賢さに遠く及ばぬとわかった」
「妬んだ。殺してやると何度も思うた。わかるか?」

じっと話を聞いていた信勝。涙を潤ませながら、いつものおべっかを使うような口調と全く異なるトーンで口を開く。

「わたくしも、兄上を妬ましく思うておりました」
「いつも兄上は、私より先を走っておられます。戦に勝ち、国を治め、わたくしがせんと願うことをすべて成し遂げてしまわれる。」
「兄上が疎ましい。兄上さえいなければ」

おそらく生まれて初めての、腹を割った兄弟の会話。
信長の右目には涙がたまっている。
聞き終わった信長は、淡々と切り出す。

「それゆえ、高政(隣国美濃の戦国大名、斎藤義龍のこと。信長と敵対している)と手を結んだか」

信勝、ふたたび生唾を飲み込む。次いで、信長のアップ。
夕日の差し込む部屋の中、西日が染谷将太の顔右半分を照らす。
右目から、一本の涙がつうと落ちていく。表情は柔和だ。

「われらは似たもの同士ということか」

信勝、どこか安堵したように、みたび生唾を飲み込む。
信長は表情を切り替え、これまでの話題がなかったかのように明るく話し始める。

「信勝、そなた、これを飲め」

「白山より湧き出でたる水であろう?ありがたき水であろう?」
「どうした?飲んでみよ」

信勝ははじかれたように、さっと平服する。
「……申し訳ございませぬ」
「どうか……お許しくださいませ」

上目遣いで頭を下げる弟を見つめる信長の目が、疑念が、確信に変わっていく。
そして、涙をこらえるように目線を上にあげ、すぐ下を向く。
何かを押し殺すように「そうか…」と深く息をつく。

静かに鳴っていた弦楽器の悲しげなBGMが途切れていることに気づく。
ただ、風の音だけが流れる、一瞬の間。

信長は、再び信勝に目線を向ける。
その目からは感情を読み取れない、ただただ暗い色をしている。

「飲め」
ゆっくりと、静かに命令する信長。
信勝は息をのんで、恐怖にかられた目で兄をみつめる。

「飲むんじゃ」
言いながら、信長は立ち上がる。目に憎しみが宿る。
夕日が信長の顔右半分の涙を輝かせ、日が当たっていない左半分の真っ黒さが浮かび上がる。

「飲め」
「飲め」
「飲め」
信長は命令するたびに、口調が早く、語気が強くなっていく。
自分の口から出た言葉に、自分で煽られているように、興奮し、憤激する。

「飲めえーー!お前が飲めぇーー!」

ついに水差しを乱暴にとった信長が、信勝に詰め寄る。
信勝はつば一つ飲めず、ただ兄を見つめる。

信長の家臣によって、部屋のすべての障子が閉められる。
「飲め」
最後、静かに、そして決して否と言わせぬ勢いで命じた信長の顔には、
一切の光があたらず、涙も枯れ、ただ暗い、暗い怒りがあるだけだった。

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