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底辺×高さを正拳突きで割る

朝方、鶏が卵を産んだ。目の前で「ケッ」と鳴いてコロンと出た。真っ白で美しい卵だったが、そこは多少勾配のある大通りだったので、卵はじっとしてられずにコロコロと坂を蛇行し、車道に出て、グシャとワゴンに轢かれた。舗装されたアスファルトにはテラテラと光る黄身がある。鶏はマンホールの上のパンくずらしき破片を、せっせとついばんでいた。

私はアジの干物が食べたくて、近くの食堂まで歩く。坂を下った先に古い日本家屋が見えた。おそらくそれほど築年数は経っていないが、無理なエイジング加工によって、全身から不自然なほどの情緒が発されている。若い木材は塗料によって焦げ茶色にされて、今にも倒れそうなほど弱っていた。ガラリと引き戸を開けると、メガネをかけてヒゲを生やした痩せ型の青年がいる。

「いらっしゃいませ」「ひとりです」「こちらへどうぞ」。
奥に通されるので、なされるがまま進む。狭い通路を歩いて進むと、もうひとつ引き戸があった。彼は私を先に通して、ガラリと戸を開けた。私が入ると、彼は「少々お待ちください」と言い残して戸を閉める。

「いらっしゃいませ」と声がする。先ほどの彼が同じような猫背でいた。「あ、ここで待ってるように言われて……」と返すと「こちらへどうぞ」と奥に促される。彼の後ろを少し歩くと、同じような引き戸があった。彼はガラリと開ける。「こちらで少々お待ちください」と笑顔を向け私一人を通して戸を閉めた。

「いらっしゃいませ」と声がする。先ほどの彼が同じような猫背でいた。「あ、ここで待ってるように言われて……」と返すと「こちらへどうぞ」と奥に促される。彼の後ろを少し歩くと、同じような引き戸があった。彼はガラリと開ける。「こちらで少々お待ちください」と笑顔を向け、私一人を通して戸を閉めた。

「いらっしゃいませ」と声がする。先ほどの彼が同じような猫背でいた。「あ、ここで待ってるように言われて……」と返すと「こちらへどうぞ」と奥に促される。彼の後ろを少し歩くと、同じような引き戸があった。彼はガラリと開ける。「こちらで少々お待ちください」と笑顔を向け、私一人を通して戸を閉めた。

「いらっしゃいませ」と声がする。先ほどの彼が同じような猫背でいた。「あ、ここで待ってるように言われて……」と返すと「こちらへどうぞ」と奥に促される。彼の後ろを少し歩くと、同じような引き戸があった。彼はガラリと開ける。「こちらで少々お待ちください」と笑顔を向け、私一人を通して戸を閉めた。

「いらっしゃいませ」と声がする。先ほどの彼が同じような猫背でいた。「あ、ここで待ってるように言われて……」と返すと「こちらへどうぞ」と奥に促される。彼の後ろを少し歩くと、同じような引き戸があった。彼はガラリと開ける。「こちらで少々お待ちください」と笑顔を向け、私一人を通して戸を閉めた。

「いらっしゃいませ」と声がする。先ほどの彼が同じような猫背でいた。「あ、ここで待ってるように言われて……」と返すと「こちらへどうぞ」と奥に促される。彼の後ろを少し歩くと、同じような引き戸があった。彼はガラリと開ける。「こちらで少々お待ちください」と笑顔を向け、私一人を通して戸を閉めた。

「いらっしゃいませ」と声がする。先ほどの彼が同じような猫背でいた。「あ、ここで待ってるように言われて……」と返すと「こちらへどうぞ」と奥に促される。彼の後ろを少し歩くと、同じような引き戸があった。彼はガラリと開ける。「こちらで少々お待ちください」と笑顔を向け、私一人を通して戸を閉めた。

「いらっしゃいませ」と声がする。先ほどの彼が同じような猫背でいた。「あ、ここで待ってるように言われて……」と返すと「こちらへどうぞ」と奥に促される。彼の後ろを少し歩くと、同じような引き戸があった。彼はガラリと開ける。「こちらで少々お待ちください」と笑顔を向け、私一人を通して戸を閉めた。

顔を上げると、先ほどの彼がいる。「いらっしゃいませ」と私は言った。先ほどの彼が「あの、ひとりです」と声を上げる。私は「こちらへどうぞ」と彼を招く。扉を開けると、地平線まで続くだだっ広い海があり、無数のラッコがひしめいていた。ヒャエェェ、ヒャエェェと盛んに喚いている。私は彼を中に通して、引き戸を閉めた。

彼を見送ってから振り返ると「いらっしゃいませ」と声がする。先ほどの彼が同じような猫背でいた。「こちらへどうぞ」と奥に促される。彼の後ろを少し歩くと、同じような引き戸があった。彼はガラリと開ける。「こちらで少々お待ちください」と笑顔を向け、私一人を通して戸を閉めた。

「いらっしゃいませ」と声がする。先ほどの彼が同じような猫背でいた。「あ、ここで待ってるように言われて……」と返すと「こちらへどうぞ」と奥に促される。彼の後ろを少し歩くと、同じような引き戸があった。彼はガラリと開ける。「こちらで少々お待ちください」と笑顔を向け、私一人を通して戸を閉めた。

顔を上げると、先ほどの彼がいる。「いらっしゃいませ」と私は言った。先ほどの彼が「あの、ひとりです」と声を上げる。私は「こちらへどうぞ」と彼を招く。扉を開けると、地平線まで続くだだっ広い海があり、無数のラッコがひしめいていた。ヒャエェェ、ヒャエェェと盛んに喚いている。私は彼を中に通して、引き戸を閉めた。

顔を上げると、先ほどの彼がいる。「いらっしゃいませ」と私は言った。先ほどの彼が「あの、ひとりです」と声を上げる。私は「こちらへどうぞ」と彼を招く。扉を開けると、地平線まで続くだだっ広い海があり、無数のラッコがひしめいていた。ヒャエェェ、ヒャエェェと盛んに喚いている。私は彼を中に通して、引き戸を閉めようと思ったが、建て付けが悪いのか、うまく閉まらない。ガシャガシャと音を立てる戸を、無理に引っ張るとついに戸はレールを外れて、ラッコの上に倒れてしまった。

「なにすんだよ。おい若造」

オスのラッコが真っ黒な目でこちらを睨んできたので、私は申し訳なくなって「ごめんなさい」と謝りつつ、泣く泣くアジの干物を差し出すしかなかった。

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