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優しいきみが好きだった

美しい朝に思い出すのは、決まってきみのことだった。朝陽に包まれ微睡んでいた、愛しい時間。

きみは死んだとみんなが口を揃えて言う。
きみの亡霊だけが、ずっとわたしの心にいて、「思い出」という名前でずしんとそこに存在している。それはとても鈍くて重いのだ。

きみはいつも優しかった。
きみが死んだあと、優しくない抜け殻だけが残った。きみと何も変わらない抜け殻の顔を見なければいけないのが嫌だった。抜け殻はいつも死人のような表情をしていたけれど、寝顔はきみと何も変わりがなかったから。これがきみだったら、わたしは間違いなく抱き締めていた。

でも、きみはもういない。
もう二度と、きみの笑顔を見ることも、きみの優しさが嬉しくて涙が溢れることもない。

きみの抜け殻は、優しさを失って、これからどうするのだろう。またちがう誰かに優しくなれるのかな。優しくなれるといいね。わたし、優しいきみが好きだった。

2020年8月の下書きから/愛の供養

天気が良い日曜日の朝は、どうしても思い出してしまうよ。

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