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百年生きる時代はペットにも及ぶ・その1

1 延びる平均寿命


屋外飼育の犬の多くは、以前はフィラリア症で5~6歳までに死んでいましたが、予防法の普及で長生きになりました。屋外でのけんかによる外傷などで死ぬことが多かった猫も、屋内飼育が増えたため、長寿になっています。

最近の調査では、ペットの平均寿命は、犬が14・19歳、猫が15・33歳です。犬や猫にも、百歳時代が到来しているのです。
10年以上生きる犬や猫が普通になってくると、飼い主も心構えが必要です。

2 そのペット、最後まで世話ができますか?

 こうした状況で、飼い主も同じく高齢ということも多く、ペットを最期まで見取ることができるかや、高額な治療費を払えるのかなどの問題がのしかかってきます。安楽死が選択肢になることもあるでしょう。

たまに「高齢・一人暮らし」という女性とお話をすると、猫を飼っている人が多いのに驚きます。寂しさの方が勝ってしまうのでしょうか?しかし、あなたに何かあったら、家で閉じ込められたままの猫はどうなるのでしょうか?

見たくなくても現実に直面しなければなりません。以前、ある都市で、「もらってください」のポスターを診ました。飼い主が病気のため、レトリバー犬と猫の引き取り手を探す内容でした。「できれば犬と猫を一緒に飼ってほしい」と書かれていましたが、別々でも引き取りする人があれば幸運というものです。猫が嫌いな人もあるでしょうし、大型犬が飼えない住宅事情もあります。
たいていのトラブルは、こうした対策が後手後手になっていることからきています。先にどんな未来が待っているか、それは考えたくなくても考えないといけないことなのです。

3 医療費の問題

加えて問題となるのが、治療費の問題です。拙著「こんな動物のお医者さんにかかりたい」(かんき出版)では、治療費が捻出できない場合の交渉の方法について書いています。「高いだろう」と思って連れていかないのでは、犬や猫が可哀そうです。
また、数年前、ある動物医薬の販売会社の方とお話しした際に、役員の方が仰っていたことがあります。それは、
「ワクチン不要という説が横行して、ネット検索でもそのサイトが上に出てくる」
ということでした。これはそのサイト管理者が意図的にしていることもあるでしょうが、ワクチン代金を負担したくない飼い主の意図が反映しているとすれば、困ったことです。検索で上にあがる内容が必ずしも真実とは限らないのです。ペット保険でもカバーできない治療もあり、これからはもっと真剣にかんがえなければならない問題がいくつもあります。

4 ではどうすれば?

最近はありがたいことに、飼えなくなった犬猫の譲渡や、殺処分を減らす努力が各所で見られるようになりました。それは大変大事なことですが、これからはもっと進んだ取り組みも必要になると思われます。
具体的には、前もって高齢者の飼い主が飼っているものを登録する、などの仕組みがあると良いかもしれません。また、獣医師の側も、何らかの方法で治療費を軽減する手段を探す必要があります。心やさしい飼い主も、どこかで治療費が枯渇するときが来るかもしれません。自分の治療にお金が必要になってくることもあります。
他人事と思わず、社会全体で考える問題ではないかと思います。

似内惠子(獣医師・似内産業動物診療所院長))
(この原稿の著作権は筆者に帰属します。無断転載を禁じます。)
似内のプロフィール
https://editor.note.com/notes/n1278cf05c52d/publish/
ブログ「獣医学の視点から」

オールアバウト「動物病院」コラム
https://allabout.co.jp/gm/gt/3049/


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