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女性獣医師のキャリア戦略

これは私が数年前、麻布獣医学科大学の学生の方に呼ばれて講演をした時の原稿です。女子学生の相談コーナーにも出ました。
要は、
一度しかない人生をどう活かす?
どうすれば仕事も家庭も良いポジションも手に入る?

ということを皆さんと真剣に考える機会であった訳です。

1 今までサイトに寄せられた声から

私はそれまで10年以上、獣医師として経験などを語るHPを運営していました。そこで女性の獣医師から寄せられた声や質問をもとに、どんな悩みがあるかまとめてみました。

1 夫の転勤で仕事が続けられない。
2 出産の後、勤務が続けにくい。
3 どうして再就職先を見つけられるかわからない。
4 早く帰ると同僚に差がついてしまう


このような声がありました。世間では「資格があっていいね」、と言われながらもそれぞれの悩みがあるのです。少しずつですが、労働条件などは改善されています。また、転職サイトなども充実してきました。しかしまだまだ問題は残っていると思います。面白かったのは、実家が動物病院で、そうでない人から見れば、開業資金は不要・就職先も決まっているという大変幸せな女性でも「結婚したい人が実家に来てくれない」などの悩みがあることでした。そういえば、獣医師同士で交際しても、両方の実家が獣医科病院であったため、話がまとまらず別れたということも聞いています。

2 進路について分析しました

まず、データから獣医師になってからの進路をいくつかに分類しました。

1 開業コース
2 勤務獣医師コース
3 企業・公務員就職コース(特殊な職種は除く)

で、恐らく取りこぼしはないと思います。
それぞれについて分析します。
1 開業コース
1 卒業と同時に獣医科病院で研修に入る。
 その後、同級生または先輩の獣医師と結婚して、数年後に開業。

2 卒業と同時に獣医科病院で研修に入る。
  その後、同級生または先輩の獣医師と結婚して、夫は会社もしくは公務  員として勤務。妻が開業。

3 卒業と同時に獣医科病院で研修に入る。
その後、獣医師でない人と結婚する、そして開業する。

4 卒業と同時に獣医科病院で研修に入る。
独身で開業をする。
(注)獣医科病院での研修なしに開業した人は知りません。いたら天才というべきでしょうか?

次は勤務をする獣医師です。
2 勤務獣医師コース 
1 卒業と同時に獣医科病院で研修。
 そのまま正職員として採用、もしくは他の病院に就職。

2 卒業と同時に獣医科病院で研修。
 結婚または出産により退職。
 その後アルバイトまたは正職員として獣医科病院に就職。

3 卒業と同時に獣医科病院で研修。
 独身で勤務をする。

次のケースも多いと思います。
3 企業・公務員就職コース
1 卒業と同時に公務員として就職。
  出産後も勤務を続ける。

2 卒業と同時に製薬会社などの企業に就職。
 独身または子供なしで勤務継続。(調査では子供ありで民間の方は少なかったです)
全く違う業種に入った方もいましたが、ここでは本題と違うので、データに入れていません。

最近ヤギを飼うのが流行っています。

どの戦略がベストなのか?

これだけある選択肢で、どれを選ぶかはかなり難しいと思います。講演の後の相談でも、「まだ先のことがわからない」という方が多かったように思います。そうは言いながら6年はすぐに過ぎてしまうので、まず自分の「手持ち資産」を見直してみようということになりました。
大切なことは「資産とは、お金だけではない」ということです。
たとえば「子供ができたらみてあげよう」と提案してくれる実家も資産です。意外なところに価値ある資産があるものです。それを探しながら、ワークライフバランスを実現するのが良い方向ではないかとお話ししました。

筆者の考えでは、人生のプランニングは結婚してから、就職してからでは遅いと思います。
早い時期から、生涯にわたるワークライフバランスを自分で設計するという課題に取り組むのがよいでしょう。

講演当時は「ワークライフバランス」ってなに?という方が多かったので、スライド(パワポ)に解説を入れました。今更ですが、ワークライフバランスとは、
「仕事と生活の調和」と訳され、「国民一人ひとりがやりがいや充実感を持ちながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、
家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる」こと 。
そんなこと、分かってると思われがちですが、これは大切なことです。

羊はそうでもないようです

3 ワークライフバランスを設計できないとどうなるか?


例をみてみましょう。

例1:勤務獣医師として働いているとき、子供がいるために夜勤ができず、同僚に取り残される。
例2:夫の転勤で、いままでのキャリアを根こそぎ失う。
例3:研究職に就職していても、妊娠を期にハードな仕事ができなくなる。

これはすべて実際の話です。厳しい(何が厳しいのかわかりませんが)院長だと「子供が病気になっても絶対病院に連れてくるな」と最初に釘をさす人もいました。なかなか育児との両立は難しいものです。私が講演で提案したことは、解決のほんの一部ですが、

目指すべきは.....
1 労働の量でなく、質を売る。
  →時間を基準にすると、男性獣医師に勝てないときがある。
2 「自分でないとできないこと」を早く見つけ、確立する。
  →そうした能力や特技は武器になる
 3 周囲との「協働」を考える。

また、生涯のキャリア構築のために
★結婚を軽視しない
  →誰と結婚するかで、人生は大きく変わる
★場当たりの勤務をしない
★「これだけは人に負けない」という専門を作っておく
★研修や交流会の費用は事業経費と考える
★情報収集を怠らない
などもご提案させていただきました。

また、最後に「どうすれば仕事が見つかるか?」というお話もしました。転職サイトが充実してきた昨今ですが、せっかくの経歴があっても門前払いということがかなりあります。転職エージェントは獣医師ではなく、動物診療の専門家ではないので、勤続年数や年齢しか見ないからです。自力で職を開拓する気持ちは常に大切です。

職探しの要点として、
1 常に自分が情報発信する側になる
→情報は発信する側に集まる
2 人の世話をこまめに焼く
   →自分も世話してもらえる
3 会合には積極的に出る
4 引っ越したら必ず獣医師会・畜産課に顔を出す
を挙げておきたいと思います。長くなりましたが、女性獣医師のキャリア形成がそれぞれの場で完成されることをお祈りします。
・・・・・・・・・・
似内惠子(獣医師・似内産業動物診療所院長))
(この原稿の著作権は筆者に帰属します。無断転載を禁じます。)
似内のプロフィール
https://editor.note.com/notes/n1278cf05c52d/publish/
ブログ「獣医学の視点から」

オールアバウト「動物病院」コラム
https://allabout.co.jp/gm/gt/3049/



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