見出し画像

本気で馬鹿やれ

最近、映画プロデューサーの川村元気氏の本をよく読んでいる。

今読んでいる本は「超企画会議」というタイトルで、ハリウッドの巨匠と呼ばれる名監督たちに突然「自身の手がけた作品のハリウッド化」オファーが来て、企画会議をすることになったら?という彼の「妄想」が123ページに渡りものすごくゆるい語り口で綴られている。休日の昼下がり、ビール片手に物凄く適当に読める本だ(もちろんいい意味で)。

彼を知ったのは2016年の大ヒット映画「君の名は。」で本当に最近の話なのだが、著書を読んでみると26歳で「電車男」をプロデュースし、他にも「告白」「モテキ」「バクマン。」「怒り」などなど、数多くのヒット作を生み出している。
彼の手がけた作品の一覧には、これは完成度の高い映画だったと感動したものが沢山あったので、これも!あ、これもこの人が作ったのか!と驚いたものだ。

軽快な語り口から伝わってくる熱と興奮が(映画プロデューサーなんだから、当たり前と言われればそうだが)こいつめちゃくちゃ映画オタクやんけ!と思わせる。彼の独特な感性は実はそっくりそのまま映画にも反映されていて、そんな個性がとても好きだと思った。

映画「宇宙兄弟」についてのインタビューでこんな話をしていた。

(映画プロデューサーという仕事は)“馬鹿センサー”も持っていないとやっていけないところもあります。常識で考えると「まともにオファーしても無理だろう」って思うところを「楽しいからオファーしちゃおっか」って思える馬鹿さといいますか。元宇宙飛行士のバズ・オルドリンに出演依頼するなんて無謀なことも、“馬鹿センサー”がなきゃできなかったと思います。

偉業を成し遂げている人たちの「あえて」する馬鹿げたこと。思えば初めてその難しさを気付かせてくれたのは、大学時代の恩師だ。

大学三年生の時、私はとある美術大学に交換留学をしており、空間デザイン科の中でも舞台美術に特化したゼミに所属していた。

そのゼミの担当教授が口癖のように言っていた言葉が「本気で馬鹿やれ」である。
舞台や映画を作る人たちは特に「本物だと信じこませる」ことをものづくりの基盤としていることが多いので、そこに起因しているのかもしれない。

三年生のゼミ展の準備をしている時、ほぼ毎日、教授から熱意のこもったメールが届いていた(全部保存してある)。

今ね、君たちがやるべきことは判りきった事じゃないから、異常な事、ヘンテコリンな事、動かしたいモノは動くようにする事、異様な光景を作る事、大きさのスケールを狂わせる事、恐怖な事、半端じゃなく楽しい事、可愛いモノもある事などを、ただ考えるだけじゃなくて、世の中に姿として表すことだ!装置はそれに見合った壮大な威圧感でやる!
ソフトバンクのCMだって、アホな設定をマジで作ったから世の中が認めたんだ。好き嫌いはあったとしても。
マジで馬鹿げたことをやってきたのが今胸を張ってディズニーランドになっている訳だし。ただのチュー助なのにさ。

背筋が冷やかになるようなものを考えてよ。見たことないなら宗教系の悪魔の資料とか満載だしもっと勉強したら?ファンタジーには程遠い。それで選んでゴーサイン出すなんて時間の事はわかるけど、中身の無いものなら一分かけるのも更に無駄だ。
観る側じゃなくて作る側にしかいないから何も気付かないんだ。もっと、きわに立って考えようよ。

ちょっとでも、ちょこんとでも上を目指そう。観る人の感情がどこに置かれるのかを経験的に自分の胸に聴きなさい。観る人の気持ちをコントロールすることを常に考えないとモノが宙ぶらりんな存在になるからね。もっともっとやれるはずだと自分に言い聞かせること。
怖いものは夢にうなされるほど怖く、可愛いものはトコトン可愛く、綺麗なものは心を洗われるほど綺麗、アホなものは地の果ての如くアホで、迫りくる建築物は壮麗で。
自分のこだわりの一歩先をやらないと自分の未来には出会えないよ。

本気で馬鹿やる胸騒ぎを、いつまでも忘れずにいたいと思う。今でもたまに当時のメールを読み返してはこの言葉たちに励まされている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?