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私たちはデータ・ドリブン・マーケティングを都合よく解釈していないか?

このnoteでは「データ・ドリブン・マーケティング」という言葉や概念に、文句ブー垂れています。2018年秋ぐらいからずっとモヤモヤ考えていて、スッキリしたくて具現化しました。

新年1発目が、こんなnoteで申し訳ないです。どーしても言いたかった。怒らないで下さい。

ちなみにこのnoteに書いた内容は、18年12月12日に勉強会コミュニティ「コネクトドット」で行われた「データ・ドリブン・マーケティングを実現するまでの罠」や、18年12月19日にZOZO Technologiesで行われた勉強会の内容と一部重複します。

ちなみに以下はZOZOでの勉強会の一コマ。シャレオツな会議室。フジ系列SMALL3でZOZO前澤社長が座っていたのも、この会議室でしたね。そろそろツイッタラー100人に100万円当選のDMが届いているのでしょうか。

ZOZOのみんな良い人だった。今度、ご飯いっしょに行きたいですね。


データドリブンってそういうことだっけ?

DMPやCDPの登場で、いよいよ「(デジタル)マーケティングにデータを活かして当たり前」と言われるようになりました。

アドテクの重要性が叫ばれる少し前の2007年から広告効果測定プラットフォーム「ADEBiS」の開発メンバーの1人だったので、ようやくそんな時代が訪れたのかという感慨深いものがあります。

業界のリーディングペーパーであるMarkeZineも、データ絡みの記事が非常に多くなりました。機械学習やAIという単語が頻出する機会も、少なくありません。(デジタル)マーケティングは、データサイエンスの恩恵をもっとも受けている業界の1つなのかもしれませんね。

そのせいか、私宛てに公式・非公式問わず「なんか分析案件で絡みたいですね〜!」というメッセージが届くようになりました。非常にありがたい話です。喜び勇んで、こんな返信を送っちゃいます。

「デコムって会社に移ったんです。たとえ味やパッケージが変えられなくても、新しいプロモーション戦略や、新しいクリエイティブを開発する知見は溜まってます! 何か良いコラボできるかもしれません!」

すると、決まって「えっ、あっ、はい」というリアクションを受けます。なぜなら「分析案件」の内容は、決まって(デジタル)マーケティングの効果測定結果の分析だからです。新しいプロモーションと言われても先方は「はぁ?」というリアクションです。もちろん、前職にそういう仕事をしていたからかもしれませんが。

皆さん一様に「だって、データが溜まっているから」「データドリブンで何か見つかるでしょう?」と説明されるのですが、私には全く意味が分かりません。

いつの間にデータドリブンは、(デジタル)マーケティングの効果測定で溜まった膨大なデータの海にとりあえず飛び込んでみて、インサイトを発見することを意味するようになったのでしょうか?

そもそも、そこまでデータって万能でしたっけ??


大前提:手元にあるデータが全て…ではない

ADEBiSやGoogleアナリティクスのような計測ツールを導入したとしても、(デジタル)マーケティングに関するあらゆる事象を計測できているわけではありません。計測できる範囲を、計測できる指標のみ、数字で表現できるに過ぎません。

例えば直帰率が分かっても、なぜ直帰したのかまで分かりません。想定と違ったのか、誤ってクリックしたのか、それ以外か。想像する他ありません。

ましてや計測対象外となると、ほとんど分かりません。某業界の景気の良さの理由も、訪問者の気分も、競合商品の動向も、まったく計測できません。フェルミ推定が如く、仮説の数字を立てるしかないでしょう。

それなのに、計測ツールから計測結果が表示されると、それがマーケティングにおける全てのデータのように錯覚してしまう人がいるのは、何故なんでしょうか。

データ分析をするにあたって、僕は、

①今、手元に"無い"データは何があるのか?
②本当は計測したかったけど、計測できなかったデータは何があるのか?

この2点を考えるようにしています。なぜなら自社のマーケティング施策だけで、消費者が商品を購入したとまで言い切れないからです。

言い換えると「そんな狭い世界で分析したら、誤った結果が出る」と思っています。


私たちはどんな問題を解くのか?考える癖を付ける

このように考える癖が付いたのは、データサイエンスの作業プロセスにおいて、分析の目的に沿ったデータの収集、収集したデータの集計、集計したデータで分析、この一連のフローが身に沁みているからです。



データサイエンティストと呼ばれる人で、手元にどんなデータがあるか確認せずに、いきなり「分析」しようと考える人はいないでしょう。

まず「私たちはどんな問題を解くのか?」を確認した上で、どんなデータが揃っているかを確認し、そのデータで問題が解けそうになければ、新たなデータの計測から始めるはずです。

嫌味のように聞こえますが、はっきり言って嫌味です。穏健なデータサイエンティストは上記プロセスを経て丁寧に分析をされる一方で、ただデータサイエンティストを名乗りたいだけの人たちは「分析」という作業にのみ異常に固執しています。それはおかしい、と2019年は声をあげます。

加えて、収集したデータが本当に正しいのかも確認するべきです。

私は過去の分析案件で、あるIoT機器が0.5秒単位に出力するデータが、約1%の確率で20%程度ズレることを事前に確認できて、誤ったデータで計測せずに済んだ経験があります。

その他にも、顔認証システムが出力したデータが、人が200%動いているとか、急に人が100倍に増えたとか、そんな誤検知も事前に確認できて、誤ったデータで計測せずに済んだ経験があります。

それなのに、データドリブンの名の下に「まずは直帰率の高いページを確認しましょう!」と言うのは、絶対にどこか間違っていると思います。

まずは目的を確認しようぜ、データが正しいか確認しようぜとツッコミたくなります。


当たり前ですが、人間は非合理・不合理

意外と忘れられていますが、データは正しいのに間違っている場合があります。マクドナルドのサラダマックの事例が有名でしょう。

以下の本から抜粋します。

例えば、お客様に「どんな商品が欲しいですか?」とアンケート調査をすると、必ず「低下カロリー」や「ヘルシー」や「オーガニック」とか健康重視のメニューが挙ります。ところが、4枚のパティが入ったメガマックを販売しても、クォーターパウンダーを販売しても、若い女性が平気でそれらを食べているわけです。お客様のおっしゃる事と実際の行動は違うんです。

消費者調査で「マクドナルドはヘルシーじゃない」「ヘルシーなメニューがあればいい」という声が多く出たので、その通りに従ったら失敗に終わったという事例です。

消費者調査自体に間違いは無いのですが、そのデータに潜むバイアスに気付かなかった事例とも言えます。

消費者は「マクドナルドで分厚い食べ応えのありそうな肉を見せられるとガブリつきたくなる」のに、サラダなんか興味を持つわけないのです。いわゆる、人間の持つ「背徳感」を体現した店舗がマクドナルドなのでしょう。

問題は、その「背徳感」を消費者自体が言葉にできない調査票を作ってしまったことにあります。声は聞けたけど、ちゃんと聞き出せなかったのです。

この事例は、人間を見ずにデータばかり追いかけたから本質を見落とした良い事例だと感じています。

(デジタル)マーケティングは、データに向き合うのではなく、人間に向き合う仕事だと思っています。人間の全てはデータに現れません。人間を理解せずに、データだけ分析するのは間違っています。

行動経済学が注目を集めるのは、データだけでは経済を理解できなくて、人間が分からなければ経済を理解できないからだと解釈しています。


このように、データはそこまで万能では無い、と私は強く確信しています。

ただし、データなんて意味が無いと言っているのではありません。計測ツールはものすごく大事です。上に挙げたようなデータの脆弱性を踏まえてマーケティング施策の効果の分析をしないとね、と思っています。

こういうデータの脆弱性に目をつむって「データで何か分かるでしょ?」と言われても気軽に「はい!」なんて言えないし、ましてや「データドリブンだから大丈夫!」と言っているツールベンダー見ると、NHKドラマまんぷく並に「えーっ!」(©安藤サクラ)と言いたくなります。


「ドリブン」とは、ドミノではなかろうか?

そもそも、ドリブンって「ドミノ倒し」みたいなものだと私は解釈しています。指標Aが倒れたら、指標Bが倒れて、指標Cが倒れて…繋がりのある指標を作り、あるいは発見するのが「ドリブン」ではないでしょうか。

すなわち、私にとってデータ・ドリブン・マーケティングは「因果関係のある指標を元にマーケティング施策の結果を確認する作業」なのです。直帰率の悪いページを起点にいろんな数値を深堀りするのは、データ・ドリブンとは言わない、というのが私の意見です。

(デジタル)マーケティングにおいて、因果関係の立証は非常に難しい。ものすごく時間がかかる作業です。だからでしょうか、なぜか因果関係の検証を見て見ぬ振りしている人は結構多い印象を持っています。

例えば、目の前を黒猫が横切った後に転んで大怪我をしたとします。そして再び、目の前を黒猫が横切りました。あなたは再び、転んで大怪我するでしょうか?

例えば、願掛けをして、有楽町の宝くじ売り場で宝くじを買ったら10万円当たったとします。そして再び、願掛けをして同じく宝くじを買ったら、あなたは再び当選するでしょうか?

猫と怪我の関係は偶然ですし、願掛けと当たりくじの関係も偶然です。因果関係はありません。転んだのは猫のせいでは無いし、宝くじは次に外すかもしれません。

もちろん黒猫を見て警戒したり、願掛けしたくなる心境は理解しますが、それは「人情」であって「数学」ではないでしょう。

では、ある広告を出稿したらCV数が多かった場合、それは因果関係があるでしょうか? 「それだけでは、まだわかりません。偶然かもしれませんね」が正解でしょう。

因果関係を立証するためには、その広告を出稿しなかったとしてもCVが高かった可能性、CVが低かった可能性、様々な世界を想定して「この広告のおかげです」と言える必要があります。

つまり、パラレルワールドが用意され、それぞれの世界で、同じ状況下で広告の出稿をしなければ正確な因果関係は測れません。それはちょっと無理なので「因果推論」という方法が編み出されました。

「因果推論」については、以下の本がもっとも分かり易く解説されていると感じています。

なぜデータドリブン=ドミノが大事かと言えば、戦術レベルのマーケティング案では「確からしい再現性」が求められるからです。

戦略立案時、過去の実績から戦術を考えるにあたり、再現性の低いマーケティングは採用しにくいのは当然です。以前と同じクリエイティブを出稿して同じ程度の成果を見込むのはある意味で下心でもあります。

前回の施策で媒体Aに掲載したクリエイティブAのCVRは高かったから、もう1度やってみよう。その結果、クソほど低かったら目も当てられません。計画の立てようがなくなります。

ちなみに私は、この「次の戦に備えて実弾(因果推論にて実証された再現性のあるマーケティング)をこしらえる」ことこそ、(デジタル)マーケティングの効果測定結果の分析の醍醐味だと思っています。「この弾で撃ったら間違いない」という認証マークを付けるのが効果測定の役割ではないでしょうか。

ちなみに、因果推論によるマーケティングの立証を丁寧に扱った書籍だと、以下の本が実務度、カバー度、使いやすさの三拍子揃ってパーフェクトだと思っています。というか、この本の通りにやっていれば間違いない。

ちなみに、第1章が全文公開されているみたいです。


データドリブンって、こういうことなんじゃないだろうか?

私の考える、「因果関係のある指標を元にマーケティング施策の結果を確認する作業」について説明します。

あなたは、明治プロピオヨーグルトR-1(ドリンクタイプ)の販促を担うマーケターだったとします。同商品は、 最近は「体調第一家族」として、体調管理をテーマに据えています。

こんなクリエイティブを放映されています。強さ=吉田沙保里、澤穂希に引っ掛けているのだろうなぁ、と推察しました。

あなたは上長から売上(購入回数の向上、新規顧客の獲得どちらでもOK)を下期新たに5%伸ばせと上長から命じらました。ただし味・パッケージデザインは変更できません。

2018年上期はプロバイオティクスヨーグルト全体で521億円だそうです。ドリンクは250億円と仮置きすると、新たに5%ですから+12.5億円です。

さて、どのようなマーケティング施策を行いますか?

 

…。


……。


私ならまず、明治プロピオヨーグルトR-1ドリンクタイプの新規顧客は誰かを考えます。既に健康意識が高くて、風邪予防を実践している人たちは「既存顧客」です。その層に向けたクリエイティブメッセージはちょっと難しいでしょう。

やれ既存顧客や新規顧客とは何のこっちゃ抹茶に紅茶(©島木譲二)と思われた方は、以下のnoteを参考にして下さい。

したがって「真剣に風邪予防はしていないんだけど、対策しなきゃいけないよと肩を叩かれたら、そうだった!と言う人たち」が新規顧客です。

例えば「2019年に子供がセンター試験(大学受験)に受験する親」です。

親が原因で子供が風邪ひいて、人生を左右する大学受験にベストな体調で挑めないとしたら、親としてこれほど後悔することは無いでしょう。

インサイトに対してバリュープロポジションは以下のようになるのではないでしょうか。

キャンペーンのキャッチコピーは「飲んで応援」なんかどうでしょう。マスクやお守りなどパック販売の側面にベタ付けすると、よりリアリティが出るのではないでしょうか。

では、「2019年に子供がセンター試験(大学受験)に受験する親」は何万人いるのでしょうか。

2018年度センター試験志願者数ですが、現役生47万3570人+浪人生10万3948人=合計約58万人だそうです。

ちなみに総務省統計局の人口推計によると、2017年10月時点の人口は17歳119万人、18歳119万人、19歳121万人いるそうです。文部科学省学校基本調査によれば大学・短大進学率(浪人含む)は57.9%だそうです。

センターを受験する人、しない人様々でしょうが、これらの数字を掛け算すると2019年時点で18歳〜19歳のうち、受験を頑張っているのは約60万人と推定します。

すると単純に×2して、約120万人の親御さんがターゲットになります。

明治プロピオヨーグルトR-1(ドリンクタイプ)は1本130円と結構なお値段します。「2019年に子供がセンター試験に受験する親」と言っても、健康意識が高いわけではないので、買い続けるモチベーションは無いでしょう。

つまり、センター試験から100日ぐらい前〜3月初旬までの期間限定のクリエイティブになると考えれば良いでしょう。すると130円×2人×130日で、合計33,800円の出費になります。

売上12.5億円÷33,800円=約37,000人に買って貰わなければいけません。実際には通期間で買って貰えないでしょうから、もう少し幅を持たせて5万人と考えましょう。対象は約120万人÷約5万人=購入率4.2%になります。

さて「2019年に子供がセンター試験に受験する親」の約4.2%に買って貰うには、明治プロピオヨーグルトR-1(ドリンクタイプ)の認知率は、どれくらい必要でしょうか。

いや、そもそも「大きな試験が控えているのに、親が風邪ひいて試験勉強中の子供に迷惑かけちゃいけない」というインサイトに、「2019年に子供がセンター試験に受験する親」はどれくらい共感してくれるのでしょうか。

共感した親のうち、明治プロピオヨーグルトR-1(ドリンクタイプ)を実際に買おうとする購入意向はどれくらいあるでしょうか。購入率4.2%は現実的な解でしょうか。

ちなみに「親ができる風邪予防」で、明治プロピオヨーグルトR-1(ドリンクタイプ)は、現時点でどれくらい純粋想起されるでしょうか。購入率4.2%のためのクリエイティブはどうしましょうか…。

私は、こうやって認知率から始まって想起率、好意度、購入意向、購入率…こうした指標がドミノのように1本の線で倒されていき、最終的に売上12.5億円を達成するマーケティング施策を、データ・ドリブンと言うのだと思っています。

とか言いつつ、事業主側のマーケティングを完全にやりきった経験が無いので、本当はもっと他に指標があるはずだろうに列挙できていない問題があるのは理解しています…。


データドリブンで「白鵬」を提案できるのか?

繰り返しになりますが、データドリブンとは(デジタル)マーケティングの効果測定で溜まった膨大なデータの海にとりあえず飛び込んでみて、インサイトを発見することを意味しません。

データは目的を持って生まれた場合のみ活かせます。目的無き、ただ計測しただけのデータは死んでいますから使えません。そんなデータの海に飛び込んでも、データに溺れるだけです。

最近マクドナルドを退職された足立光さんが書かれた本の中に、こんな一節があります。

私が入社してから初めて、商品開発から関わった「グランドビッグマック」も、 マクドナルドらしさを貫く、というところから生まれたものでした。
「ビッグマック」が大きくなって、パティが約1.4倍という、ただそれだけの商品でしたが、私は面白いと思いました。
(略)
そしてここで、イメージタレントとして起用したのが、横綱の白鵬関でした。「グランド」「大きい」ということで、有名な野球選手など、他にもいろいろな候補を考えましたが、「グランドビッグマック」の重量感がないのと、何より話題性に欠けるのです。

以下のリンク先に白鵬関のクリエイティブがあります。迫力というか圧力というか、デカさがビンビンに伝わりますよね。

http://www.mcd-holdings.co.jp/news/2016/promotion/promo0331a.html

純粋な疑問なのですが、DMPや効果測定ツールを使って「白鵬」という提案を導き出せるでしょうか。

足立さん曰く「実はマクドナルド的には、お相撲さんの起用は肥満を連想させるので、まったくのNG」だそうです。だとすると、マクドナルドと白鵬を結び付けるデータは殆ど無いはずです。

MarkeZineがデータドリブン!データドリブン!と連呼する度に「そっちには、もう殆ど何も無いんじゃね?」と冷めた目で見ている私がいます。だって本来のマーケティングで必要なのは白鵬関の提案なのに、世間一般で言われているデータドリブンでは白鵬関は見つからないのですから。

もしデータの海から「白鵬」見つけたら、なんか奢りますのでご一報下さいます。よろしくお願いします。


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