ある日、姉に言われた一言で僕は多種多彩な感情が湧き上がっていた。

僕には7つ上の姉がいる。
子どもの頃、姉はよく家に友達を呼んでいて、その友達が「弟かっこいい！」などと言っていたら、なんだかいつも嬉しそうにあとで僕に報告してくれていた。

数年前、姉が結婚することになり、旦那さんを紹介された。同じアニメ好きとしてとても話が盛り上がった。

するとその日の晩、姉からこんなLINEが届いた。

「『弟さんイケメン風だね！』って夫が言ってたよ！！」

と久しぶりに嬉々として伝えてくれたのである。

あぁ～こういうの久しぶりだなぁーと実家にいた頃を思い出しながら、嬉し懐かしい半面、少しモヤモヤした。

ん？と少しの間、立ち止まる。

そしてすぐにそのモヤモヤの正体がわかった。

「"イケメン風"ってなに？」

ざっくりとした括りとしてよく使われるのは草食系や子犬系、スイーツ男子とかはよく聞くけれど、"イケメン風"て。

僕はあくまで"イケメン風"であって、旦那さんからは"れっきとしたイケメン"だとは残念ながら思われていなかったのである。なんだかイケメンぶってそうで申し訳ない。

姉の善意に少しモヤモヤした。

とはいえ、30年も生きていれば、こういうことちょこちょこあったなぁと思う。


大学生の頃は、東京にいながらバリバリの関西弁だったからか「関ジャニ∞にいそう」と言われていた。

これは"イケメン風"の類語である。

ぜひ辞書に載せてほしい。広辞苑の次の改訂版に載せてもらおうと岩波書店に直訴するつもりだ。

(ちなみに関ジャニ∞全盛期の時代だからね！)

他には「香取慎吾の弟にいそう」と言われていた。

もはや存在しない。架空の人物、想像の産物だ。褒めでもなんでもない気がする。


一番それってどないやねん！と思ったのは、僕の似ている芸能人の話になったときに、内定先の同期の女の子から言われた以下の言葉である。

「小池徹平を一般人にした感じ」

いやいやいや！小池徹平は一般人ならざる者だから小池徹平なのであって、小池徹平を一般人にしたらそれはもはやただの一般人やん！

とすぐにつっこむと、

しどろもどろしながら「ほっ褒めてる褒めてる！良い意味で」

残念ながら僕は決して王道な二枚目俳優ではないことがわかる。

しかし、恋は盲目。

恋しているときは、好きな人が好きな芸能人に見えてくる。

杉浦太陽、窪田正孝、福士蒼汰、TAKAHIRO、櫻井翔……


「この人目が悪いのかな」と思いながらも、人生で一度しか言われたことがない、今後一生言われないであろう、この似ているイケメン芸能人の名前を、心の中から時々取り出しては大事な宝物みたいにそっと抱きしめながら僕は生きている。


「全然似てないから。ほんとに思ってる？」

この宝石の純度を測る。

「思ってるよ」

相手の目をみて判断する。


それから頭の中にある自分の人生を大きく変えた言葉や出来事ばかり入っている引き出しを開けては、前から二番目くらいにゆっくりと置く。そして、時々見返しながら、こちらも純度100％でありがとうと思うのだ。