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1.SEXを買う妻

私はSEXを買った。
今巷で噂の女風、
つまりは女性用風俗ってやつだ。

スーパーでバナナを買うように、
ネットでネイルの予約をするように、
私はSEXを買う。

それは意外とあっさり、
きっかけは些細なことだった。

「君は影がないんだよ。
それが面白みがなく魅力がない。
だから浮気されたんだ。」

メンターからの
飲み会での何気ない一言が、
私の女としてのプライドを
ズタボロにした。

私の何を知ってる?
人前では見せていない
一面だって私にもある。

夫が3人と浮気をしていたことが
発覚した十数年前。

浮気をした代償として
私も浮気をしていいと合意して

この10年生きてきた。

だが浮気をしていい状況だと
それが起きないのが浮気なのだ。

浮気はしようと思ってもできない。

いつの間にか
浮気しちゃってるから
浮気なのだ。

そう考えると
事故的でもあるのかなと
夫が少し気の毒でもある。

だが私は
クソ真面目にこの10年、
何を守ってきたのだろう。

ただこれは
夫というよりは
私自身の問題だ。

思い当たる節があるとすれば、
学生のころが影響しているに違いない。

父に浮気をされたことで
母の見たくない行動を

目の当たりにしたからに
他ならない。

仕事から帰ってきた父が
お風呂に入っている間に
財布をチェックしたり、

数ヶ月するとふくよかだった母が
みるみる痩せていったり。

そうなったのは
父が原因ではあるけれど、

壊れゆく母の姿が
正直見窄らしいと思っていた。

私は母のようになるまいと
夫婦間には
何ごともなかったかのように
時は過ぎていった。

そして今年
下の子が無事に成人を迎えた。

なぜだかは
わからないけれど
子どもが大人になるまでは
私の中で留めておこうと
心に決めていた。

子ども達は夫のことが大好きだ。
だが夫の浮気は娘に悪影響を
及ぼしてしまうと思っていた。

でも、
そんなの私の勝手な
取り越し苦労。

それは私の保身からだった。

『浮気をされた母親は
女として娘に尊敬されない』

という方程式が
私の中にあったからだ。

娘が私を蔑んだとしても
娘の感情をコントロールすることは
いくら親だからって
できっこない。

人間の心理なんて
状況次第で受け取り方は
十人十色。

よくよく考えてみたら
当たり前で

私の与り知らずのところなのに
誤った方程式を信じていた。

この十数年を
否定されたような気になって
メンターに反発するように

「えっ?
なら私のこの十数年は
なんだったのでしょう?」

と、問うたら

メンターは
左手の人差し指を立てて

「まぼろし〜」
とIKKOのモノマネで
返された。

私は顔面蒼白。

それを
ミーヤキャットのように
首を長くして覗き見る仲間たち。

その表情はなんだか嬉しそう。

とにかく惨めだった。
惨めになることを
私は一番恐れていた。

なので
私は母のようになりたくないの
一心で
良妻賢母を演じていたのかもしれない。

だけど
あのときの私はしっかり
惨めだった。

否定を握り締めていると
握り締めている通りの現実が
やってくる。

母のことが見窄らしいと
思ってしまった
私がとった行動は

時を経て

しっかり惨めになる
現実を引き寄せていた。

貞操観念風な私。
本当はそんなことないのに。

ズルい自分を
私はよく知っている。

夫が複数もの
相手と浮気をしてくれたことで
安堵したことだってある。

夫にはなんでも制限をかけられていた。

特にスピリチュアルに対しては
悲観的で本を家に置くことさえ
許されなかった。

聴く音楽も
思想さえもコントロールしてくる。

浮気をしてくれたことで
夫が私に制限をかける
権利は剥奪された。

私は晴れて自由の身になった。

浮気をしてしまったら
その自由がなくなるのだ。

だが、
メンターからの一言で
頭の中の死守していた糸が
プチンと切れる音がした。

あぁ、私、夫に満足していない。

父親としては優秀だが
セックスにおいては1ミリも
満足していない。

夫以外の人とセックスをすることを
浮気というのであれば、
それも致し方ないけれど

正直浮気がしたいわけではない。

私はセックスがしたいんだ。

壊れてしまうほど
セックスがしたい。

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