自分の楽しいが、誰かの喜びにつながるために  【世界標準の経営理論12:リーダーシップとモチベーションの理論】

リーダーシップだのマネジメントだの、本当に難しい世の中だな、とつくづく思う。

組織の中で働くということは少なからずストレスが生じるし、特に大きな組織にいると、リーダーシップとかマネジメントって、結局何のためにあるのだろうかと目的を見失いかける瞬間がある。

一方で、こんな難しい世の中を楽しく生きていくためには、「組織」の中で一定の成果を出したり、もしくは「組織」に使われるのではなく「組織」を使いこなす「技術」が必要になる。

その技術こそが、リーダーシップやマネジメントだと理解している。

改めて感じたのは、「一人一人が人間らしく、楽しく生きるためにはどうすれば良いか」かを考える上でも経営理論は大きな支えになってくれることだ。

【読解】リーダーシップの理論

そもそもリーダーシップとは何かについても学術的な定義は定まっていない。その理由は、リーダーシップに求められるものが時代とともに変わってきているためである。

世界の経営学のリーダーシップ研究の歴史を辿ると、大まかに5つに分類される。

理論1:リーダーの個性の理論(1940年代〜)
リーダーを務める人は、他の人と比べて特異でユニークな「資質・人格」がある。しかし、普遍的なリーダーの個性は、ほぼ見つかっていない。

例えば、「自然発生的リーダー」についての分析や、「役職としてのリーダー」についての分析といったものがある。

理論2:リーダーの行動の理論(1960年代〜)
リーダーにも部下に対する「行動スタイル」は異なり、その違いが部下・組織のパフォーマンスに影響を与える。

例えば、ルール・役割分担などの「設計」を重視するスタイルや、部下との友好的な人間関係を重視するスタイル、などがあるいう研究がある。

理論3:コンティンジェンシー理論(1960・1970年代〜)
リーダーの個性・行動は、その時々の「状況・条件」によるという理論。

それを言っちゃおしまいよ、という話。。。

理論4:リーダー・メンバー・エクスチェンジ(1970・1980年代〜)
リーダーと部下の「心理的な交換・契約関係」に注目。
平たくいうと、リーダーの心理的な「えこひいき」を説明する理論。

リーダーが組織の誰とでもまんべんなく、質の高い交換関係(えこひいき)ができれば、それが望ましい。とする考え方であり、それは経営学からすると「可能である」としている。その具体的な方法論として、部下の悩みや課題を聞き出す、「アクティブ・リスニング」や「部下への期待を部下とシェアする」などが挙げられている。

そして、今世界のリーダーシップ研究の中心的理論となっているのが、次の2つの理論である。

理論5:TSLとTFL(1980・1990年代〜)
■トランザクショナル・リーダーシップ(TSL)

部下を観察し、部下の意思を重んじ、あたかも心理的な取引・交換のように部下に向き合うリーダーシップ
■トランスフォーメーショナル・リーダーシップ(TFL)
明確なビジョンを掲げて自社・自組織の仕事の魅力を部下に伝え、部下を啓蒙し、新しいことを奨励し、部下の学習や成長を重視するリーダーシップ
(3つの資質:①カリスマ、②知的刺激、③個人重視)

TSLとTFLは一見全く別のスタイルのリーダーシップに見えるが、重要なポイントは、決して相矛盾するものではなく、両者は「優れたリーダーシップ」として「補完関係」にあること。

TFLはいわゆる「カリスマ・リーダーシップ」にも見えるが、実は「フォロワーの自立性」という点で大きく異なる。フォロワーは盲目的についてくるのではなく、自立性を持つ。

そして、これからの不確実性が高まる時代においては、TFLがさらに求められる。

新たなリーダーシップ
■シェアード・リーダーシップ(SL)(2000年代〜)

グループの複数の人間、時には全員がリーダーシップを執る

これまでの垂直的なリーダーシップの関係とは異なる「水平関係」のリーダーシップである。メンバー全員が「自分のグループである」という意識を持つことで、お互いの知識を交換しあいチームの成果を高めやすい、という研究結果がある。

そして、最新のリーダーシップ研究では、この「シェアード・リーダーシップ(SL)が浸透したグループの中でも特にパフォーマンスが高くなるのは、各メンバー(=リーダー)がトランスフォーメーショナル・リーダーシップ(TFL)を執った時」という結果も出ている。

すなわち、現在のリーダーシップの最強パターンは『SL×TFL』の掛け合わせである可能性が示唆される。チームメンバー全員がビジョンを持って、全員がリーダーシップを執りながら、互いに啓蒙し合い、知識・意見を交換する姿である。

【読解】モチベーションの理論

リーダーシップと「対」のような関係にあるのが「モチベーション」である。なぜならリーダーの役割の一つは、メンバーのモチベーション向上にあるからだ。

モチベーションとは何か?

モチベーションとは、「人の行動に影響を与える」ものであり、一言で言うと「人を特定の行動に向かわせ、そこに熱意を持たせ、持続させる」ものである。

モチベーションは「外発的動機」と「内発的動機」の二つに大きく別れることがわかっており、これまでの実証研究では外発的動機よりも内発的動機の方が個人の行動へのコミットメントや持続性を高めるといったことが明らかになっている。

理論1:ニーズ理論(1940年代〜)
人には根源的な欲求があり、その欲求がモチベーションとなる、という考え方。

誰もが知っている「マズローの5段階欲求」が代表的なものだが、この5段階欲求説は科学的なものではないと言う結論になっている。

理論2:職務特性理論(1970年代〜)
仕事には、従事者の内発的動機を高める仕事があり、その特性は以下の5つとされる。
①多様性 :多様な能力が必要となること
②アイデンティティ :最初から最後まで携われること
③有用性 :他社の生活や人生に影響を与えること
④自律性 :自律性を持って仕事ができること
⑤フィードバック :成果を認識できること

本書では大企業からスタートアップへの転職で飛躍的にモチベーションが高まったと言う例が紹介されている。

理論3:期待理論(1960年代〜)
人の動機は、人は事前に認知する、成果に対する「期待」見返りの「誘意性・手段性」(適正さ)に影響される。

期待理論は、報酬制度(インセンティブ)と動機の関係を説明することに適した理論である。

理論4:ゴール設定理論
人はより具体的で、より困難・チャレンジングなゴール設定するほど、モチベーションを高める。人は、達成した成果について明確なフィードバックがある時、モチベーションを高める。

ゴール設定理論の実務への貢献は、「モチベーションは、具体的でチャレンジングな目標設定と恒常的なフィードバックで、人為的に高めることができる」ことを示した点である。

具体例としても星野リゾートの「現場への権限委譲」や、「ミス撲滅委員会」というフィードバックの仕組みの話が紹介されている。

理論5:社会認知理論(1960・1970年代〜)
「自己効力感の高さ」(=自分の能力への自信)
が、ゴール設定理論の「目標設定の高さ」や行動へのコミットメントに影響を与えて、モチベーションを高める。

「自己効力感」に影響するものは、①過去の自分の行動への認知(フィードバック)、②他者との比較、③「君ならできる」といった社会的説得、④精神的・生理的な安定感、などとされている。

理論6:プロソーシャル・モチベーション(2000年代〜)
「他者視点のモチベーション」であり、プロソーシャル・モチベーション(PSM)が高い人は、「他人の視点に立ち、他人に貢献することにもモチベーションを見出す。」

「顧客視点に立つ」「取引先の視点に立つ」「部下の視点に立つ」、また「社会貢献」といったものなどである。

そして近年の研究で実証されているのは、プロソーシャル・モチベーション(PSM)と内発的動機は「補完関係」にあり、相互に影響し合うことでパフォーマンスの高さに影響を与えるということである。また個人のクリエイティビティを高めるという研究結果も出ている。

【読解】リーダーシップ×モチベーション

ここまで「リーダーシップ」と「モチベーション」の理論を概観してきたが、両理論が現在までに辿り着いた結論からは、そこに共通点を見出すことができる。

■リーダーシップ :SL×TFL
チームメンバー全員がビジョンを持って、全員がリーダーシップを執りながら、互いに啓蒙し合い、知識・意見を交換する姿
■モチベーション :PSM×内発的動機
他者視点に立ちながら、自分自身の内面から何がしたいかを突き詰めて考えて見出せている人材

ビジョンを持つとは、「自分のビジョンは何か」「自分は何者で、何をしたいか」を深く真剣に内省し続ける必要がある。

そして、それは同時に、自分自身の内発的動機を見出す作業に他ならない。

また、自分自身のことだけを考えるだけでなく、他者(チームメンバー含む)の立場になりながら、自分が何に貢献できるかを考えることが内発的動機を強くする。

それは同時に、チームメンバー全員の焦点(ビジョン)を揃え、力を合わせる行為にも繋がる。

つまり、「SL×TFL」が高い組織こそ、「PSM×内発的動機」の高い人材を生み出す組織である可能性である。

自分の楽しいが、誰かの喜びにつながる

理論を読み解いてきた通り、リーダーシップもモチベーションも、時代の変化とともに求められるものが変化したり、「人間」への理解が深まることで理論も発展してきている。

理論自体もどんどん複雑化してきているようにも見えるし、実際、今の世の中で生じている現象も本当に難しいことばかりだな、と日々感じる。

顧客との関係はもちろんのこと、上司部下、組織間の関係、社内外の関係、個別の人間関係、、、、突き詰めていくと、私たちの悩みやストレスは、こうした人間関係の中に集約されていくように思う。

そうした目線から考えると、リーダーシップやモチベーションを理解するということは、ある意味で、いかに自分らしく楽しく(「手を抜く」という意味ではない)、誰か(同僚、パートナー、顧客、、、)の喜びを感じたり、共感しあえたりするためのやり方・努力、を考えるための思考の軸になるのではないかと思う。

そして、自分自身の北極星(=他者のために、自分が実現したいこと)を深く深く考え見いだすことこそが、すべてのスタートラインになるのだと改めて理解した。

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今回のモチベーションの理論を読んでいて思い出したのは、数年前に話題となった以下の本である。私自身この本に出てくる「究極的関心」ということをある時期考えて今でもスマホのトップ画面にしているが、今振り返るとその行為はとても良かったと感じている。

ちゃんと理解するには本を読むべきだが、以下の動画はこの本のさわりの部分だけなのだが、私みたいな凡人が勇気をもらえるプレゼンテーションなので(かつ短い)とてもオススメ。

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