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Day50_人は声から忘れるらしいけど

父の怒鳴る声で目が覚めた。

ひとは声から忘れると聞いたことがあって、実際長い事忘れていたのだけど。

夢の中で、父の足音が聞こえて、わたしは「あ、降りてくるな」と思う。
降りてくるな、というのは当日は戸建てに住んでいて、一人だけ生活リズムの違う父は一番遅くに起きてくる。
寝室がちょうどリビングの真上で、父が起きると足音が聞こえるのだ。
踵をあえて床に擦るような、下駄のカランコロンという音ををもっと不穏で傲慢にしたようなそんな足音が。

その音が聞こえたら、わたしたち家族は戦慄する。
魔王様の今日のご機嫌はいかがだろうか。
理不尽に怒鳴られたりしないだろうか。
せっかくの穏やかな時間が終わってしまった。
そんなふうに思った。

足音がだんだん近づいてくる。
階段をどすんどすんと不快な音を立てて降りてくる。

冒頭に戻る。

リビングに降りてきた父がわたしの名前を呼んだところで目が覚めた。
鮮明に思い出せてしまった、あの声で。

暫しベッドの上で最悪さを噛み締めながら、気がついたことがある。
お隣さんの洗濯機が回っている。

お隣さんの洗濯機は古いのかなんなのか一定間隔で「ドォン」と鳴るのである。
普通にうるさいし不快と思っていたのだが、どうやらこの音をわたしの無意識は「危険が迫っている」と認識したらしい。
つまり、父の足音に似ているのだ。

気づきたくないことに気づいてしまった。
お隣さんが洗濯機を回す度にわたしは父を思い出してしまう。
かと言ってお隣さんに洗濯するなともいえないし。

さてどうしたものか。



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