見出し画像

気候変動により生活を破壊される人々

2019/04/08

先月28日、WMO(世界気象機関。国連の専門機関の一つ)が地球温暖化に関する非常に重要なリポートを発表した。「記録的な温室効果ガスの排出量が気温を危険なレベルに押し上げていて、物理的、経済的影響が深刻化している」とリポートは警告している。2015年から2018年にかけての年間気温は観測史上最も高い数値を示している・・・

画像2

30年ほど前の夏、14万人もの人命が失われたバングラデシュのサイクロン災害を、酷暑の中、テレビ局のクルーの一人として取材した。水浸しの大地、倒壊した家屋、親を失った幼い子供達、不衛生なサイクロンシェルターで暮らす人々ー その惨状は今でも鮮明に記憶している。現在、国土の殆どが海抜10M以下の低地である同国では、気候変動により激しさ・頻度を増したモンスーン・サイクロンによる高潮・洪水、土地の侵食、塩害などが発生し、結果、多数が生活の場を奪われ 難民化(気候難民) している。大量の温室効果ガスを排出し続けている日本を含む先進諸国のツケを、気候変動の原因に殆ど全く関与していない最貧国の一つであるバングラデシュの人々が払わされているのだ。

今年2月、ヒンドゥークシュ・ヒマラヤ山脈の氷河が温暖化により今世紀末までに少なくとも現在の3分の1に減少するという驚愕のリポートがネパールの首都カトマンズに本部を置くICIMOD(国際総合山岳開発センター)より発表された。 ガンジス、インダス、メコンなどヒマラヤを水源とする大河川の流域にはバングラデシュの人々を含む20億人以上が生活をしている。この一帯は、多くが1日200円以下で生活する世界最貧エリアの一つ。氷河湖の決壊による洪水、水不足、干ばつ、水害など、温暖化による災害が既にこのエリアを襲い始めている。 更に、先月中旬、アフリカ南東部の国々(モザンビーク、ジンバブエ)をサイクロン「イダイ」が襲い、甚大な被害をもたらした。1000人以上が死亡、2000人以上が行方不明、300万人以上が影響を被っている。これも、バングラデシュ等と同様のケースだ。

CO2の排出量が世界で5番目(2018年)に多いにも関わらず、温暖化が日本のマスコミ(特にTV)で話題になることは殆どない。僅かな報道でも、その中身はほぼ「被害」及び「防災」。つまり、被害者の視点が殆どで、加害者としての認識が著しく欠落している。先月3月15日に初めて世界同時に実施された若い世代による気候変動(温暖化)問題を訴える「気候のための学校ストライキ(School strike for climate)」も全くと言っていいほど報じられていない。ヨーロッパ、北・南米、アジア、オセアニア、アフリカ等の125の国々で2000以上の抗議運動(スト)があり、140万人以上もの生徒・学生が学校を休んで参加した。非常にニュースバリューのあるネタだ。BBC、CNNなど世界の主要メディアは当然のごとく詳細に報じている。要は、主にスポンサー収入で成り立っている民放と政府の意向を忖度するNHKで構成される日本のテレビメディアは、なるべく「気候変動(温暖化)」問題に触れたくないのだ。これは、(多くの識者が指摘している)「3.11」以前に原発(東電)がマスコミでタブー視されていたのと同じ構造だ。

温暖化が対岸の火事ではないことは、近年の台風や集中豪雨による被害の激化、長引く異常熱波による熱中症患者の急激な増加等を通じて既に多くの日本人が実際に体験、理解されているはず。加えて、今後約10年の内に温暖化抑制のための根本的な対策を講じなければ、その後、壊滅的な被害が日本を含む世界各地に及ぶことをIPCC(気候変動に関する政府間パネル)をはじめとする世界有数の研究機関や専門家が警鐘を鳴らしている。遠からず人類自体が絶滅すると具体的なデータを示して語る研究者・識者も世界には幾人もいる。日本人の大半は無知なだけで、実際、問題は深刻化しているのだ。それ無しでは我々の生活が成り立たない、最も大切な生存基盤(自然環境)が確実に崩壊し始めている。抜本的な対策を何も講じない、個人の生活スタイルを実質的に少しも変えない今の様な日本社会の現状で本当に良いのだろうか? 先の「学校ストライキ」を創始した16歳のスウェーデン人環境活動家グレタ・トゥーンベリさんは国連の会議等で以下のように語っている:

 「あなたたちは自分の子どもたちを何よりも愛していると言いながら、正にその目の前で子どもたちの未来を奪っています」「今現在の私たちの行動の選択が、私の一生涯や子供や孫たちの人生に影響を与えるのです」「人々は日常生活がもたらす結果の全体像に全く気づいていません」「現在のルールに従っていては、世界を救うことはできません」

彼女の真摯な訴えを、あなたはどうお聞きになるだろうか。

先月、グレタはノルウェーの国会議員3名により本年度のノーベル平和賞の候補にノミネートされた。議員の一人は、AFP(フランス通信社)のインタビューに推薦理由を次のように語った:

 「私たちは、グレタ・トゥーンベリさんを推薦しました。今、気候変動を止めずにただ手をこまねいていれば、将来、幾つもの戦争・紛争を引き起こし、大量の難民を生み出すことになります。トゥーンベリさんは世界的なムーブメントを起こしています。これは、平和に対するとても大きな貢献です」

気候変動は、現代に生きる一人一人(特に、CO2を大量に排出し続けている先進諸国の人間)が真剣に向き合い対応しなければならない最重要且つ緊急の問題の一つだ。気候に関する正義(気候正義)の実践が、今、強く求められている。
______________________________

P.S. 今月22日の「アースディー」に、スウェーデンを拠点とするソーシャル・ネットワーキング・サービス「We Don't Have Time」が気候変動問題を考える ´No-Fly´会議をストックホルムで開催します。“No-Fly”、すなわち、カーボンフットプリントをより一層増やす飛行機を利用して来場することを認めない、一貫した反温暖化の姿勢を示すユニークな会議。ネットでライブ中継される予定なので、関心のある方は、是非、ご覧ください。

*The 2019 We Don't Have Time Climate Conference
________________________________
(NOTE) 

Climate change: Global impacts 'accelerating' - WMO

Climate refugees in Bangladesh | DW Documentary

Climate Migration- Bangladesh on the move

Bangladesh Documentary climate change

Climate Displacement in Bangladesh

World's highest glaciers are melting - billions at risk | Inside Story

The End of Ice: Dahr Jamail on Climate Disruption from the Melting Himalayas to Insect Extinction

The Hindu Kush Himalaya Assessment

ヒマラヤ氷河消失の恐れ、河川に悪影響で農業被害も=報告書

アフリカ南東部襲ったサイクロン 大被害の理由
予想外の進路でモザンビークと近隣諸国に甚大な被害を与えたサイクロン「イダイ」

サイクロン被害のモザンビーク、道路脇に「300~400人の遺体」

“Remember the South”: Devastating Cyclone Idai Another Example of Global South Paying for Polluters

Cyclone Idai survivors situation worsens | DW News

Here's how you can help Cyclone Idai victims

二酸化炭素(CO2)排出量の多い国

The Uninhabitable Earth: Unflinching New Book Lays Out Dire Consequences of Climate Chaos

School strike for climate

Global Climate Strike: Meet the teenagers skipping school to fight for a greener planet

グレタ・トゥーンベリ略歴

「気候正義」とは

「地球温暖化防止」:私たちにできる日常の重要な取り組み

The 2019 We Don't Have Time Climate Conference

Climate Change - The Facts

画像2
画像3
画像4
画像5


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?