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女という病

朝地下足袋を履いていた脚に、夜はピンヒールを履かせる。

あし、痛い、ふくらはぎ、つりそう。

「こんばんはー、茉莉花です」

にこりともせず適当に挨拶をしながら、ホテルの部屋に入る。
部屋でシャワーを浴びて待っていた客が、私と会ったその瞬間から、
いや、つまり会う前から、ふつうに勃起していることがままあって、
引いた。


女王さましていた頃の私は、悟っていた。
この世は、パッと見、女が得しているようにみえることがあるらしいが、絶対にそんなことはないと。

例えば、男社会の私の生業、山仕事。
ばかな人から見ると、大人数に一人女が混じっていると私がチヤホヤされているようにみえる、とのこと。
どう見えようがどうでもいいが、困ったのはそれに嫉妬する人が、ヘイト剥き出しにしてすげー私に向かって石を投げてきたこと。

本当はチヤホヤっていうか、
単純に私が若き低脳だから、
面倒見がいい人たちが集まって周りで根気よく教えたり、フォローしたり、カバーしたりをしていただけだった。

そしてうらやましがってくる人は、決まってこう声をかけてくださった。

「若いから可愛がられてるだけ」
「女だから」

これは、つまり
お前個人がその人から好かれているのではないから。
ただ性別と年齢で評価されてるだけだから。
調子乗んな。

ということを意味していた。

悔しかった。あと死にたかった。

言われた時点で嫉妬されてることはよくわかった。
けどさー、
いや、愛されてるのは紛れもない私だからでしょ! 評価されてるのは私の実力やし! っていえないよ。

いえないし、思えないよ。


女で、若いからという理由だけで可愛がられているらしいこの身体、の中で生きなきゃだめな私。あーあ、惨め。もう、さいあくな気分!

まず理不尽な石を投げてくる個人にはもちろん腹が立つ。
女を使うという便利な言葉で私はいとも簡単に揶揄されたが、
年齢と性別を使ったポジション取りのことをそう呼ぶのなら、
おばさんはおばさんを酷使し、
おじさんはおじさんを乱用している
ように見える、私には。
女を使っている私だけがなぜチート扱いで石を投げられねばならんのか、理解できない。

その次は自分の身体に八つ当たりしたくなる。
ぼさっと搾取されてんじゃねぇよ。
やり返せ! この身体を換金するんや!
このあたりは一年前の私が一生懸命書いてた。

ちなみにこの時の私が金を徴収しようと思ったのは
「若い」と「可愛い」だけじゃせいぜい金くらいにしかなんねぇだろうとわかるくらいに賢かったからだ。

女王さまは、というより風俗業は、林業と並ぶくらいの立派な立派な肉体労働だった。

M男の身体を踏みつけるのは、立っているだけでもやっとピンヒールで片足立ちになりバランスを取らなきゃいけなくて地獄のようだった。
ペニバンで男のケツを責め続けると、太ももと腹筋がそれはそれは痛くなった。
遅漏を相手にするともれなく腕は筋肉痛になった。


若いと可愛い、でたしかに金は作れる。
でも、全然容易くない。
全っ然、容易くないから。



現場で働いていると、
男の人たちの中で、自分がどのように見られているのか、ずっと私はこわかった。

就職活動で明らか困ってた私。拾ってくれた会社と「できるよ」っていってくれた班長。

入ったら入ったで「こいつちゃんと仕事できてんのか?」って思われてる気がした。女って実際使い物になってんの? って

聞こえてきたのは「ゆいちゃんはチヤホヤされてる」という声だった。

こんなに虚しいことはなかった。
自分なりに頑張ったつもりだったんだけどな。
頑張った意味、なかったかも。

楽な仕事をまわしてもらってるわけでもない、
給料に色つけてもらえるわけでもない、
ゆいだけ荷物運ばなくていいよ、とかそんなことだってない。

そんな私に「チヤホヤされてる(からズルい)(石投げていい)」っていうんや。

精一杯やっても、私が評価されると=チヤホヤに繋がる。
私の精一杯は足りてないのだろうか。それは、私だから? それとも、女だから?





仕事を始めて、四月で三年目に突入した。

私は、悩まなくなった。
それは単刀直入にいうと、はじめより断然仕事ができるようになったのがさすがに自分でも目に見えてわかるようになったからだ。

私の精一杯は、ちゃんと足りていたのだ。
私の精一杯は、二年の時を経て私に届いたのだった。
すっげぇ仕事ができてるわけではもちろん全然ない。けど、初めに比べたら成長したと思う。

最近自分よりずっと先ぱいの事務の子と少し仕事していて、
腰が低くて驚いた。
仕事早いね、と周りに言われても「えぇ〜早くないよぉ」といい、
仕事できてすごいと私が褒めても「全然できてないよぅ」という。

圧倒的ゆとり!!

と思ってあまりのかっこよさに痺れた。
その子が持ってるのは、ゆとり。
「女扱いしないで!」とむくれる私が絶対に持てなかったゆとり。
「私は頑張ってるんで」と肩肘はってりゃ絶対言えない言葉たち。

これからも、私はチヤホヤされてると言われ続けることだろう。
時には石を投げられ、短気なのでその度にまぁ腹は立つだろうが、覚悟は持とう。


もうここ最近は、そういう嫉妬にはまとめて
いやいやおかげさまで……という意味を込めて「えへへ、、😊」といっている。
相手がイラっとすることをわかってあえて照れているかのような反応をする。
つまり、シンプルに挑発してる。

気ィ、つよ!

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