世界の分断

今後、世界はますます分断されそうな気がする。

SNSが発達したことで、コミュニケーションは活発になった。しかしそこで注目を浴びるのは、キャラクター性の強い存在だ。人物はキャラクター化されることで、情報が圧縮されて、拡散力が強くなる。そして、そのキャラクターは自分のアイデンティティを守るために、敵キャラをつくり出す。敵キャラがいることで、集団の結束力は向上する反面、世界は分断される。

人気キャラクターとはどのようなキャラか?それは、時代によって異なる。人々が分断を感じているところをうまく埋め合わせするのが人気キャラの特徴だ。

「努力してもうまくいかないなあ」と落ち込んでいる状況で、それほど努力もせず成功している存在を確認した時、大抵の場合は嫌な気持ちになる。そんなとき、キャラクターは登場して、「あいつらは、敵だ。きっと卑怯な方法を使っているに違いない。敵は、我々の権利を侵害している」と言う。それが共感を呼び、人気キャラになっていくのだ。

つまり、この場合の人気キャラは、努力した自分と、成果を認めてくれない他人の間のギャップを埋める作用がある。敵キャラを作り出すというオマケがついているのだが……。

キャラだけを愛しているから分断がおこるのだと思う。人物を全体的にとらえて、一人の人間として愛することができれば、このような分断は避けられると思う。

人間、基本的にたいした存在じゃないし、そういう意味ではみんな大体同じだ。たとえそれが敵キャラとしての性質をもっていたとしても、そんなに意味はない。相手にも敵キャラとして存在している事情があるだけだ。「敵キャラの事情なんてしらねぇよ」と無視して、敵キャラを攻撃するのか。敵キャラの事情を少しでも知ろうと努力するのか。

敵キャラの事情を知るのは非常に面白いことだと思う。

漫画、アニメなどに登場する嫌がらせキャラだって、「本当は主人公のことが好きだけど、素直になれないから仕方なく嫌がらせと受け取られる言動をしているだけ」とかという事情を知ると好きになってしまうこともあるだろう。

もちろん相手の事情を知ったところで、その事情は逆に許せないという気持ちになることもあるだろう。例えば、自分が幸せになるためなら他人はどうなってもいいというものだ。

でも冷静になって考えてみると、だからといって敵キャラを攻撃したら、どちらかが降伏するまで争いは続くことになってしまう。戦うことがバカらしいと思っていても、自分たちのアイデンティティを守るために、戦わざるを得ない。そうしているうちに、戦いを一気に終わらせる発明(暴力的手段)がされて、先に実行した方が、勝って、勝ったものが正義になっていく。

アイデンティティは自分に対するキャラ付けだ。自分はこういうキャラでなければならないと思うこと。

人物でなく、キャラとしての性質をほめられる教育がされると、キャラに愛着をもつことが自然になる。

大人数の人口を効率的に教育をしようとする、学校のシステム的には、勉強ができるキャラとか、権力者の命令に反論しないキャラとしての性質をのばすことに注目せざるを得ないだろう。学校というシステムがほめているのは生徒のキャラであって、生徒自身ではない。

そもそも学校というシステムには国家の優秀な担い手を養成するという目的がある。そうしなけば、国家は弱体化し、他国に攻められ、システムをつくる権力者にしてみれば、権力者としてのアイデンティティを失うことになる。

このようにキャラ付けを好む権力者が、キャラづけを好む民を養成し、その中から、キャラ付けを好む権力者が再生産される。

キャラ付けの良さを説く者は多くても弱点を説く者は少ない。キャラクターの発信力に負けてしまう。

キャラ付けだけを気にするとと自分自身を縛ってしまう。キャラがぶれるのも信頼しにくいかもしれないが、キャラはあくまで、コミュニケーションを円滑にするツールの一つだ。

あなたが何かの専門家キャラだとして、ビジネス的状況でにあなたに話しかけてくる人は、専門的アドバイスをくれることを期待するし、実際そうするだろう。

専門家キャラだとしても、日常的状況ならば、兄としてのキャラクターとかで対応したりするかもしれない。

常に一貫して専門家キャラだと、日常でも説教ばかりしたりすることになって楽しくないだろう。

世界にはいろんなキャラがいることを知っておいた方がいい。特に、創作されたストーリーは、世界を広げてくれる。

いろいろなストーリーを知ることで、いろいろなキャラを目的に合わせて演じることの重要さを知ることができる。ムカつく相手も、目的があって単に嫌と思われるキャラを演じているだけであると気づくことができる。

とはいえ、相手にキャラを押し付けるのはあまりよくない。押しつけは争いを生む。今は何か目的があってこういうキャラを演じたいのだなと相手を理解して満足するくらいにとどめておくのがよい。

自分自身にムカついているとしても、それは自分にキャラを押しつけているということだ。「男だから……でなければいけない。女だから……でなければいけない」というキャラ的思考にとらわれているのだろう。

キャラには目的がある。それを忘れてはいけない。本来の目的を忘れて、キャラであり続けること自体が目的になってしまうと、本質を見失う。

いろいろなストーリーを知ろう。いろいろなキャラを知ろう。キャラの目的を考えよう。そうしたら、世界の分断に対抗できるかもしれない。

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