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SNS映え至上主義時代に逆行する北欧ファッションブランド

 僕が現在のファッションシーンにおいて最も危惧していることの一つは、主張的な服飾の需要が増加する結果、非主張的な服飾を追求するブランドが下火になることだ。また今後それらの非主張的なブランドの中でも売れるブランド、売れないブランドとで二極化し多様性が失われることも懸念される。

 近年の目覚ましいSNSの普及により、鮮やかなカラーパレットで華美な装飾を組み込んだ「SNS映えのする=主張的な服飾」の需要が若者を中心に高まっている。一方でAULALEEやCOMOLI、LEMAIREなどといった生地感、シルエット、絶妙な色使い、服の醸し出す雰囲気などを得意とする、非主張的で魅力が内在するブランドは全体としては需要が減少している。同時に個々のブランドで見ると大御所と呼ばれるブランドに人気が一極集中し、「非主張的なブランドの新規参入」は非常に困難なモノとなり、多様性が失われてしまう。

 実際僕の身の回り(大学生)でも、感度の高い洋服好きは派手でモードなドメスティックブランドを好む者が多い。彼らが言うには、高い金をかけて洋服を買うなら、やはり主張的で分かりやすい格好良さを求めるそうだ。

 このように「パッと見地味なブランド」に逆風の時代の中でも、このようなクリエーションが受け入れられ、様々なブランドを生み出し続けている地域がある。それが北欧である。

 北欧では「LAGOM=普遍的で質の高い物を必要な分だけ揃えて暮らす」という言葉が浸透しているように、今日の大量消費、SNS至上主義的思想に対するアンチテーゼが確立されている。従って、ある意味非商業主義で魅力の内在するファッションブランドがローンチし成熟していく土台が形成されているのだろう。近年の活躍が目覚ましい北欧ファッションブランドを5つ挙げていく。

[Acne studious]
 北欧発ファッションブランドの筆頭であるAcne studiousは今やラグジュアリーブランドとして地位を確立しつつある。近年はよりモード感を押し出し、挑戦的で実験的な所謂「ラグジュアリーブランドに求められるクリエーション」を押し進めている。前述の主張的なクリエーションに該当する部分も多いが、間違えなく北欧ブランドの世界的評価を一新させた立役者であり、その功績は大きい。

Acne studious 2223aw

[Our legacy]
 Our legacyやNamachekoは次世代を担うファッションブランドとして数年前に日本市場に上陸し急速に規模を拡大している。 

 Our legacyはブランディング力に長けているうえ、ニーズを組み込むのに卓越している印象である。アイテムは黒、白、灰色、ベージュ、辛口の青色などのごく限られた色味に抑えられており、コレクション全体の統一感も感じられる。Martin Margielaなど、服飾史の中でも偉大な遺産(legacy)を踏襲しながらコンテンポラリーに昇華したスタイルが魅力的だ。 

Our legacy 23ss

[Namacheko]
 Namachekoは、デザインの革新性が魅力だと考えている。比較的穏やかなカラーパレットを用いつつも、シルエットや装飾、異素材の組み合わせによりコレクションアイテムの様な圧倒的なオーラを放ちつ。リアルクローズとしても成り立つアイテムの数々は、モードな服装を偏愛する若者の心を捉え続くている。

Namacheko 2223aw

 また、Acneの弟分としても知られるHopeや新進気鋭のSefrの台頭は、時代を真っ向から逆行するクリエーションを行いながらも支持を集めつつある。

[Hope]
 Hopeはこれら北欧ブランドと比較してもスカンジナビアな雰囲気を非常に強く纏っており、そのクリエーションからは祖国への強い愛と誇りすら感じられる。普遍的なアイテムながらも解き放たれる大人の色気が明確な差別化を生んでいる。

Hope stockholm 2223aw

[Sefr]
 Sefrは2016年に創業したブランドである。世間的には素材選び全般が高く評価されているが、私は中でも人工素材の質がとりわけ高いと感じている。2223awのヴィーガンレザージャケットはグレインフィニッシュを施すことにより、天然レザーにみられるシボ感を見事に表現している。また、同シーズンのコレクションで一際目立っていた「HARRY SWEATER」もナイロン、アクリル、ポリエステルを用いて毛足の長く、保温性の高い上質なモヘアを見事に表現していた

Sefr 2223aw

 持論だが、北欧は海に囲まれ断絶されている事から文化の流入が少なく独自文化が発展しやすかったのだろう。また、一年を通し厳しい寒さに見舞われることから第一次産業の発展も厳しかった反面、内職が発展し職人文化が深く根付いているのではないかと思う。そういう意味では、ここまで北欧から非主張的な服飾を提案するブランドが

個人的には、北欧が打ち出し続けるスタイルからは、芯の強さ、内側から醸し出る品の良さなどが感じられる。また、これらのアイテムは着用者本人の魅力や個性を打ち消すことなく、むしろ増幅させてくれるような気さえする。そして、普遍的なスタイル故、時代の流れに淘汰されることもなく、この先何年、何十年と着続けることが出来た暁には、まさに北欧のLAGOMの教えを体現することができるであろう。

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