エイミー・ワインハウスという人(映画「Amy」感想)

Amazon Primeで、エイミー・ワインハウスのドキュメンタリー映画「Amy」を観た。

エイミー・ワインハウスを知ったのは、当時海外のスターのゴシップを翻訳しているサイトをよく閲覧しており「お騒がせセレブ」として頻繁に彼女の記事が掲載されていたことからだった。

エイミー・ワインハウスの太い線ではねあげられたアイライン、盛り盛りのヘア、それに対してか細すぎる体躯、そして「奇行」と言われたその行動の数々。

その見た目が印象的で彼女が歌手であると書いてあったため、音楽が好きなので彼女の音楽を試しに聴いてみた。
当時の私は、「お騒がせセレブ」と言う言われ方から想像したのとは違う音楽性に驚き、感動したものの、彼女の音楽の渋さや魅力を充分に知るには幼すぎたように今は思う。

彼女の危うさと、その音楽。
なんとなく、いつも彼女のことは他のセレブとは違い頭に残っていた。

エイミー・ワインハウスが亡くなった時、いつかそうなるのではと心のどこかでは思っていた気もするが、それでもショックを受けた。

後に、そのエイミー・ワインハウスのドキュメンタリーが公開されたのを知り、観たいとは思っていたが、日々に追われて観ることが出来ていなかった。

映画には、彼女のデビュー前後から亡くなるまでのごく私的な映像や写真なども交えられていた。
そこに映るデビュー前後の彼女は、粗野ではあるが内面は繊細な女の子で、そして何より地位や名誉に興味がないただ音楽、特にジャズを愛してやまない人だった。

エイミー・ワインハウスは、時期としては1枚目のジャズアルバムをリリースした後ぐらいだろうか。ブレイクと言う男性に出会い、彼に精神的に深くのめり込む。
彼が付き合っていた彼女と別れられないとエイミーに別れを告げてから元々繊細なエイミーの心は蝕まれていくが、彼女はその別れを音楽へと昇華させていき製作した2枚目のアルバムで一躍スターとなり、ブレイクとも復縁・結婚する。

このあたりで、このドキュメンタリーを観ている人はかすかに思うだろう。
ひどくエイミーを傷つけた(結果としては、彼女の音楽には一役買ったが)ブレイクがスターになったエイミーの地位や名誉、金を利用するために復縁をしたのではないか?と。

事実、ブレイクはエイミーに強いドラッグを勧めてブレイクを愛するエイミーは彼とドラッグ体験をも共有し、元来持っていた摂食障害に加えドラッグへの依存で身も心も蝕まれていく。

旧知の友人たちは本気で彼女を引き戻そうとするが、エイミーには常にマスコミや彼女を利用しようとする人(それはブレイクや実父を含む)がまとわり付く。

ブレイクはエイミーとは(映画曰く)無関係の罪で逮捕されるが、その間に失意のあまり島で静かな日々を過ごし回復しかけていた(実父が水を差したが)エイミーが不貞行為を働いたとして、あっさりと、残酷にエイミーとの離婚を申し立てる。
エイミーが不貞行為を働いていたのは離婚した事実からも本当ではあるだろうからエイミーにも非はあるが、ブレイクが後に出たドキュメンタリー番組のインタビューの映像からもブレイクの非情さは際立つ。

このブレイクという男のどうしようもなさに怒りや呆れという感情が湧き上がるが、それでもエイミーが心から愛した男で、エイミーは彼なしでは生きることがあまりにも難しかった。
それは依存とも言えて、世間的には愛と依存は似て非なるものと捉えられる。
だが、この映画での彼女の姿を観ていると愛と依存は互いに共存しているものなのだろうか。と思わされてしまう。
そして、この2人の関係を一辺倒に責めたいとは感じられくなってしまった。

彼女は遂に心から愛した歌う行為すら出来なくなる。
しかし、あの状況で歌いたいと思うにはエイミーはあまりに純粋でか弱いままスターに祭り上げられてしまったように思い、その悲壮感に心を痛めた。

忘れられないシーンがある。
エイミーが歌えなくなる直前に、彼女が幼いころから憧れだったトニー・ベネットと録音をするシーンだ。
そこに映る彼女の姿はデビュー当時の粗野であどけない、純粋に音楽を愛する女の子と寸分違わなかった。
そして、トニー・ベネットの前で自分がその場に値するのかと落ち込みながらも真摯に録音に打ち込む姿とその歌声。

彼女の簡単に壊れてしまう脆い心と純粋さ。
そして彼女の溢れ出る才能が許さなかった、彼女に見合った生活や人間関係、音楽活動。

作品を観終わり、改めてエイミー・ワインハウスのアルバムを探して聴いてみた。
お騒がせセレブとして彼女を知った当時より自分も大人になり、改めて聴くエイミーの歌声や音楽は本当に素晴らしくて、もし望まないツアーに出て回るのではなく、彼女がしたかった気の知れた音楽仲間との音楽製作が実現していたら、と思うと悔やんでも悔み切れない。

もし死後の世界があるとしたら、彼女が大好きなジャズシンガーたちと一緒に何のしがらみもなく歌えていたら良いな。と子供染みているかもしれない祈りをせずにはいられない。

あまり纏まっていませんが、感想や思いを綴りました。

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