花の見頃 あなたの見頃
街中を歩いていても、スマホをかかげて写真撮影をする人を見かけなくなった。
1週間前まであれほど多くの人が桜を見上げていたのに、そんな木々はなかったかのように今はみんなスマホに夢中。
4月上旬で見頃を終えた桜が、今年も続々と散り始めている。
私たちは綺麗に色づく桜に見惚れる。
2週間もない短い期間だが、この時期になると一斉に木々を見上げる。
桜は毎年日本人に春の知らせをしてくれると共に、「あなたの新しい生活はきっと良いものになる」と暗示してくれているような気がする。
私たちはこの美しい瞬間を逃すまいと写真を撮り、かけがえない友人たちと花見をして、
物思いにふけりながら一人桜を眺める。
私はこの期間がとても好き。
どんな過ごし方にも合う桜が好き。
桜のおかげで誰しもが上機嫌で、
優しい時間が流れている。
でも私は、
4月以外の桜にことさら興味を持っていない。
ピンクに色づくあの美しい2週間以外で桜を意識することはほとんどない。
なのにこの時期になると「待ってました!」とばかりに桜に見惚れる。
この美しい4月を迎えるために、夏の猛暑や台風、冬の寒さを耐え抜いてきた一年を私たちは知らない。見ていない。
人や作品に対しても同様のことが起こる。
一夜にしてスターに駆け上がった
(ように見える)若手漫才師の、
たゆまぬ努力を私たちは決して知り得ない。
一気に世界的大ブレイクを果たした
(ように見える)歌手が、
泣かず飛ばずで諦めかけていた夜を私たちは知らない。
どんなドキュメントにも決して映らない、
見えない努力がそこにある。
その延長線上に今、春が訪れている。
これはなにも、表舞台でスポットライトを浴びる人だけに訪れるものではない。
私のように誰の目にも止まらず、ただ普通に働く人間にも同様に訪れる。
一生懸命考えた企画が通り、
大きなプロジェクトが成功する。
「すごい!」「よくやったね!」とたくさんの人から称賛の声をもらう。
時には思いもよらない、憧れの人から作品を褒めてもらえることがある。
そして時には、一部の人からやっかみや嫉妬を抱かれ邪魔をされることがある。プロジェクトをまるごと奪しってしまおうするひどい人だっている。
これが春。
春が訪れる。
そして春は去る。
プロジェクトが難航し始め、
大きなトラブルやミスを犯す。
次に手がけたものがうまくいかなくなる。
一生懸命努力をするが報われない日が続く。
桜は徐々に散り始める。
それまで周囲に集まっていた人たちは見事にいなくなる。
それまで称賛の言葉をかけてくれていた人たちは私のもとを去り、
遠くから離れた所から陰口が聞こえてくるようになる。
私の花びらは完全に散り、
隣の花がちょうど見頃を迎えている。
彼らは、見事に咲き誇っている花にまたスマホを向けている。
こういう経験はなんら特別なものではなく
一生懸命生きているあなたや私なら当たり前に経験すること。そしてとてもとても深く傷つく出来事。
今人生で初めて見頃の花を咲かせている人たち。どうか肝に銘じてほしい。
あなたが咲かせているその美しい花は、
いつか散る。必ず散る。
そして周囲の人はいなくなり、
シャッター音も聞こえなくなる。
いつの間にかあなたの隣の木々が、目をそらしたくなるほどに美しい花を咲かせている。
かつてのあなたのように。
そして、どうか忘れないでほしい。
花が散ってしまったあなたを忘れずに、
見上げてくれている人がいる。
あなたが咲かせた花の美しさを忘れずに、
待ってくれている人がいる。
こういう人は本当に数少ないのだけれど、絶対にいる。あなたや私はそういう人たちに支えられて生きている。
それは友達だったり、家族だったり、恋人だったり、時には顔も知らないこの世の誰かかもしれない。
数少ないそういう人たちを忘れてはならない。
冷遇された時、何もかもうまくいかなかった時、あなたの心を隣で支えてくれていた人、
そっと見守ってくれていた人を絶対に忘れてはならない。
その人たちのためにも、
そして自分のためにも、
多くの人には見えない努力と鍛錬を今は淡々と重ねよう。
桜がそうであるように、
あなたと私は何度でも花を咲かせられる。
そして、
他人が美しい花を咲かせているその時は
ちょっと優しい気持ちで応援してみませんか?
「なんだよっ…調子乗りやがって!」なんて思わずに、「あの人は今人生の春を迎えている!見事な見頃な!」と、スマホでいっぱい撮ってあげたい。
あなたや私が知らない場所でたゆまず努力を重ねた結果なのだ。
好みでなくても、気に食わなくても拍手して称賛する。
その人をやっかんだり、
作り上げたモノを奪う行為は、
無理に花を散らせるために枝を揺らし、木々を痛めつける下品な行為と同義だ。
他人の春を喜びの気持ちで眺められない人なんかには、いつまでも春はやってこない。
一生やってこない。
散るまで「綺麗だ」と眺めて
散り際も「素敵だ」と眺めて
散った後もたまに見上げて、
「また待っているよ」と声をかけてあげたい。
あなたも私も
誰かの美しい花を待っていられる人になろう!
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