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巣鴨駅のHONEY’S BAR

わたしの地元から、山手線に乗り換える駅は巣鴨駅だった。親と出かけていた小学校時代、友達と池袋や上野で遊ぶようになった高校時代、鹿児島の大学に進学し、東京に帰省した時も使うのは巣鴨駅。

都会をぐるぐる回る山手線との乗り換え駅である巣鴨駅は、わたしにとって都会への入口であり、出口だった。行きは、その日の予定へのワクワクと期待を、帰りはあとちょっとで地元だという安心感を与えてくれる駅だ。

巣鴨駅は乗り換えやすく、地下鉄の改札を出てから階段をひたすら登ると、山手線の駅の目の前につく。NEW DAYSとちょっとおしゃれなパン屋さん、アトレヴィ巣鴨が改札の外にあって、ご飯を食べたり、ちょっと買い物するにも巣鴨駅前で事足りるので、割と便利な駅だ。

改札の中には、小さな店舗スペースが一つだけある。わたしが物心ついた頃から、ずっとそこにはフレッシュジュース屋さんのHONEY'S BARがあった。

わたしはこのHONEY'S BARがお気に入りだった。他の駅では寄らないのに、なぜか巣鴨駅ではよく立ち寄って、フルーツジュースを購入してしまう。巣鴨駅について、ホッとする気持ちがそうさせていたのかもしれない。

友達とお出かけした帰り、入試の帰り、仕事帰り。ちょっと疲れたなあ、なんか飲みたいなあ、小腹が空いたなあって時に、いつも吸い込まれるようにフルーツジュースを購入してしまう。黄色い店舗とカウンターに並んだ彩り豊かなジュース、店員さんの気持ち良い接客が心を癒してくれていた。体にいいことしている感もあって、自分を労わることの1つだった。


ある日、久しぶりに巣鴨駅に行くとHONEY'S BARがあった小さな店舗スペースは、黄色い看板が外され、シャッターが降りていた。「ああ、無くなっちゃったんだ」とほんのりと寂しい気持ちになった。チェーン店だし、他の駅でも行けるしと心の中で強がってた。

しばらく経つとその場所はおにぎり屋さんになっていた。いつも出迎えてくれた黄色看板は、和風な赤い文字に変わり、色とりどりのフルーツジュースは、ノリにふっくらと包まれたおにぎりに変わった。

ジュースのような感覚でおにぎりを買うのは難しくて、ぱったりと寄らなくなってしまった。巣鴨駅のHONEY'S BARにもう行けなくなってから気付く。わたしは、ほっとできる巣鴨駅で、フルーツジュースを買って、その日こなした予定を労る時間がとても大好きで大切だったんだ。

巣鴨駅がわたしにとって安心できる場所であることはたぶんこれからもずっと変わらない。おにぎり屋さんとも仲良くなれたらいいな。


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