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ブロンディールのババ・オ・ロムから読み解く、反ツユダク。

ツユダク至上主義の蔓延

突然だが、「ツユダク」が嫌いである。
周りを見渡せば、世の中にはツユダクがを良しとし、気付けばツユダクが蔓延している。
ツユダクとはつまり、「つゆ」または「タレ」にバランスの重きを置いた文化の事を指す。ツユダク文化が根付いた90年代後半から(特に牛丼屋などでは)「つゆを少なめに」と注文しなければ、つゆ多めで来る確率が高まったような気がする。
これの何が悪かというと、ご飯の持つ風味や食感を台無しにしてしまうこと。
そんなの口の中に入れれば同じでは?という声が聞こえてきそうなのでハッキリと申し上げさせて頂きたい。
全然違う。全くもって違うと。
丼モノの美味しさというのは、一緒に口に運んだ具材とご飯のコントラストからの渾然一体感。
一緒に盛られていてもそこには、ちゃんと線引きがある。
親しい仲にも礼儀ありのような具合に、
具材は具材、ご飯はご飯と。
コントラストがあるからこそ旨さが2倍3倍となるのだ。
それがツユに染まっていると、ご飯はもう「お前は既にその味わいなっている」、なのである。

話が逸れるがカツカレーはどうだろうか?
カツカレーもカツの上からカレーが掛かっていると、コントラストが失われる。
「お前は既にフニャフニャになっている」、状態なのである。
カツの衣のサクッとした食感からの豚肉の甘さとカレーのドロッとしたスパイシーさが一緒になったときに、初めて旨さが2倍3倍となるのだ。

ツユダクは味わいにおいてオーバーフロー状態なのである。

ツユダクとの決別

ここからが本題。
ブロンディールの、ババオロム。

結論、絶妙なシロップ量、キレのあるラム酒、生地感をしっかり残したブリオッシュ、コクで包み込むクレームシャンティ、静かな名脇役ラムレーズン、全てが完璧なのである。
面白いのが、カップ状の器に入れられているのにビシャビシャに溢れていない事。
つまり、ツユダクではないのだ。
このカップだとしたら、半身浴くらいにはツユダクになっているだろうと想像するところ、実際は少し滲み出ている程度という。
良い意味で期待を裏切る。
藤原シェフの美学なのだろう。
何か一つのパートが突出するのではなく、全体で感じるバランス、食べた時の調和、これは最も藤原シェフが重視する部分。
ババオロムにおいては、一番重要なラム酒の芳醇な切れ味をしっかりと感じさせつつも、ババ生地の食感と風味を同時に感じさせ、ババ生地が旨いからラム酒(シロップ)が活きる、ラム酒が活きるババ生地というWIN-WINの関係性がここではハッキリと表現されている。
面白いのが、地球の重力の関係だと思うが生地の下部はラム酒がヒタヒタに感じられ、中部から上部へ移行するとともにドライになってゆく点。(上部にはラムレーズンが潜んでおり、食感と風味にリズミカルなアクセントを添えている。)
もちろん全体からラム酒を感じるのだが、変化も愉しめ、ウェットにはウェットのドライにはドライの良さがあり、食べ進める中で自身で調整しながら味わるようになっているのだ。半身浴の効果が実感出来る。
常に強烈なアルコール度数を感じれば痺れてしまうし、逆だと物足りなく感じてしまう、双方の揺らぎを一つの中にパッケージする事で解決していると言える。
同時に、この揺らぎはフランス菓子らしいと感じられる要素だと思っている。完璧で均一なものは大勢多数の評価は得られるかも知れないが、どうしても面白みに欠ける。職人の手作業によって生み出されるプロダクトはどこか温もりや愛嬌があって欲しい。フランス菓子、特に伝統菓子と呼ばれるものには大らかさや揺らぎがあった方が美しく、心に沁みる旨さがあると信じている。だから、藤原シェフのババオロムは心を掴んで止まないのだ。
ついでに言うと、トップに添えられた気高きクレームシャンティは、ラム酒濃度を中和させ、ババ生地にコクを与え、全体を纏め上げている、あるのとないのでは全く印象が異なるであろう重要なパートを担っている。
シンプルなガトーだからこそバランス感覚の鋭さが際立ち、美学が表れ、惚れるという落とし方。今回も迷うことなく一瞬で落とされた。

また、何気にブロンディールのガトーの中では一番高価格の設定になっているのも注目したい。シンプルな仕様のガトーだからこそ思う、無闇に価格は上げない藤原シェフのことだから、恐らく贅沢な原材料費となっているのが想像できる。味わえば納得以上の大きな歓びに満たされるのだから。

まとめ

ツユダクとババオロムの関係性とは即ち、適切なバランスと調和。ツユ(シロップ)がなければ成り立たない、しかし必要以上に浸らせると素材が埋もれてしまう、だからこそ美学が必要なのである。

藤原シェフにはこれからも美学を貫き続け、唯一無二の存在で魅了し続けて欲しい。



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