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技術力という言葉を軽々しく使いたくない

嫌いな言葉「技術力」

エンジニアとして長年仕事していると、技術力という言葉を聞く機会が多い。この技術力という言葉があまり好きではない。

なんとなく逃げに感じる。

技術力があるない、技術力を発揮する、技術力を身につける。

こう言った物言いは尺度が曖昧であるし、そもそも技術力という言葉が相対的な言葉なので、これらの文頭には(比較的)という括弧付きの形容詞が付いている事になる。

技術力、すなわち技術を身につけるということに対して、消極的な人ほどこの「技術力がなんとか」というセリフが多い。

「我が社の技術力で目標を達成しましょう」

「チームの技術力で持って成功に導こう」

どこかで聞いたことのあるセリフだと思うが、とんでもなく胡散臭いセリフだ。

具体性がなく、結局そこから下の「仕事」にブレイクダウンしていくプロセスには当の本人が関わってこなかったことが多分にある。

問題は新人への影響だ。こう言ったセリフの出自は経営者やマネージャなどの影響力を持つ人物であることが多く、曖昧で便利なこの「技術力」という言葉を彼らは多用することになる。

ITエンジニアの初級者はこの「技術力」というワードを漠然ながらも繰り返し聞くことになり、「ああ、自分も技術力を身につけなければ」「この会社は技術力がすごいんだ」という具合にインプットされる。

その実、技術力とは何か不明確だ。

技術系の資格を取得すれば技術力があると言えるのか?

仕事を長年やっていれば技術力がついたと言えるのか?

給料が上がれば技術力がついた結果だと言えるのか?

これらの問いはいずれもNoであるし、部分的にでもYesではないかとは言い難い。

LPIC Level3の資格を取得しても、modprobe.dを知らなかった人もいるし、私なんてActive DirectoryとHyper-Vの資格を持っているが、役にたった試しはない。

長年SEをやっていた人物でも、てんで技術的な会話ができないおじさんおばさんを何人も見てきた。

給与ばかり高いコンサルが、高度な技術話になると口をつぐむ様子も何度も見てきた。

「技術力を身につける」とは何か

では、技術力はどうすれば身につくのか。手法は様々あるが、最上位レイヤーに位置するのは、「繰り返さなければならない」ということだ。

毎日毎日、テクノロジーと真摯に向き合い、手を動かすことだ。

情報をインプットし、その情報を整理し、他のテクノロジーと比較し、市場での動向を研究する。

自身の開発環境なりに導入し、使う。

コードを書く。設計書を作る。

故意に障害を発生し、ログを読み、プログラムの挙動を追う。トラブルシューティングを行い、環境を復旧する。

既製のOSやソフトウェア、ハードウェアであればマニュアルを熟読し、他社製品と比較分析する。

他者にプレゼンテーションをし、意見を交わす。

これらの作業を日々、真摯に黙々と繰り返す。

1日15分でも良い。テクノロジーに関することを、自らの体験で持って繰り返し繰り返し、体に覚えさせる。

その結果、身につくものが技術力だ。

私はインフラエンジニアだが、繰り返し繰り返しOSコマンドを実行しているうちに、いわゆる「言語」と同じ意味をなす文字列となった。コンピュータを会話を交わすように、命令を打ち込み、いちいちコマンド意味など調べずとも、マニュアルや手順を作成せずとも操作することができるようになる。

これは、1ヶ月に1時間などの間隔では身に付かない。何度も何度も、体が無意識に手を動かすようになって初めて、その領域の技術力が高いと言える。

先にあげた「技術力がなんとか」みたいなセリフは、前提としてこう言った繰り返し繰り返し身につけている人材、またはその集団に対して適用できるが、果たしてそこまで深く考えていようか。

きっとやってるはずだろう、とも思っていないだろう。単に仕事をして稼いでいるから技術力があるんじゃなかろうか、ぐらいの意識で使っている例が多く、現実逃避、要望、理想を語っている例があまりに多い。

問題は、新人たちが同じ傾向に陥ることだ。結果、繰り返しやるようなことを誰もやっていないと想像してしまう。

「あの先輩、社歴長いけど、あの程度でやっていけてるんだから自分も大丈夫だな。」(技術力ってあの程度でいいんだな)

このような感覚が無意識に身に付いてしまい、学習意欲が低下する要因になる。

事実、そういったセリフを多く発言してきた経営者の企業では、新人たちのほとんどが日々の学習をしていなかった。

繰り返し繰り返し毎日やることが技術力である、という啓蒙がなされて、彼らの実績が伴って、初めて技術力を語る資格がある。

そう思ったのは、最近毎日自分もSQL文と格闘しているからであって、これまでデータベースの操作が苦手だったのだが、もはや別の仕事でもデータベースを自分で作って情報管理システムを作っちゃったりしていることに気づいたからだ。

改めて、繰り返しやることはスキルになることを身を持って実感した。

これからも、極力「技術力」という言葉を軽々しく使わないようお勧めしたい。自身が毎日技術の習得に勤しんでいないのであれば、尚更。


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