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病床経過報告⑧再発とCAR-T細胞療法

 今年の1月に無事入院生活を終えて4月から職場復帰をしようとしていた矢先、病気の再発が発覚した。人生とは何が起こるのか分からないもので、退院してから3ヶ月足らずでまた病院送りになってしまった。お腹に鈍い痛みを感じる日があったので嫌な予感はしていたのだが、癌細胞を検知するPET検査を受けたところ腸や肝臓などに病変が見られた。昨年末に造血幹細胞移植という強めの治療を行って一旦終止符を打ったかと思っていたが、随分としぶとい病気だったようだ。病院の先生によると「今回は相手が悪かった」ということらしい。なんとも不条理な話だ。一度戦って負かされた敵に対しては同じ攻め方をしても仕方がなく、別の戦術を立てる必要がある。そこで今回私が受けることになったのが「CAR-T細胞療法」だ。日本では昨年保険の認可が降りたような新しい治療法であり、国内では稀少なケースと言ってもいい。稀少なケースであるから、記録を残しておくことに多少の意味はあるだろう。

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 CAR−T細胞療法では、癌細胞を攻撃する細胞(CAR-T細胞)を移植することで寛解を目指す。その具体的な手法と仕組みはこうだ。白血球の内、免疫機能を機能の中心的な役割を果たすリンパ球があり、リンパ球の一種であるT細胞には癌細胞を攻撃して死滅させる機能がある。患者自身のT細胞を採取し、遺伝子医療の技術を用いてCAR(キメラ抗原受容体)と呼ばれる特殊なタンパク質を作り出すようにT細胞を改変。CARは癌細胞などの特定の抗原を認識し攻撃するように設計されており、CARを生み出すことができるようになったCAR-T細胞を患者に移植することで難治性の癌を治療する。治療を受けるには幾つかの条件があり、今回私は適応と見做された。攻撃対象を意図的に与えた細胞を移植するというのは、ナノマシンを投与するみたいな話で、SFっぽくて大変興味深い治療法ではある。病気になって以来、人体に対する興味は尽きない。
 この治療法だが、国内では実施できる医療機関が限られており、尚且つ希望者が殺到してなかなか予約がとれないようだ。私の場合は先生の迅速な手配によって奇跡的に3月にT細胞の採集、5月半ばに移植が可能になった。細胞の採集と移植については現在入院している病院では行えない為別の病院で行う。今後私の治療のスケジュールとしては、3月23日にT細胞採集→細胞を加工するためにアメリカに空輸→病気の進行を防ぐ為に抗がん剤で治療→5月半ばにアメリカから細胞が届き次第移植→3週間〜1ヶ月ほど経過を観察して問題なければ退院、となる。現在は細胞の採取を無事に終えて抗がん剤の治療を待っているところだ。最短で6月に退院し、年内には社会復帰をしたいと思っている。前回は丸半年入院していたので、それと比べれてしまえば短期決戦。今回の治療を終えるまで、観察と記録はしていきたい。

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