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病床経過報告⑦退院

 
 悪性リンパ腫と診断され、緊急入院してから約半年。やっと退院できる日がやってきた。現状は「治癒」ではなく、あくまで「病状を抑えることができている」状態だそうだ。再発の可能性はあるが、このまま5年間〜10年間再発がなければ「治癒」とみなされる。長期間病気と付き合っていかなければならず、退院できるとはいえ、なんともスッキリはできない。今後は月1回の通院と3ヶ月に一度の画像検査を受けながら経過観察をしていく。社会復帰に関しては、経過を観察しながら担当医と相談して時期を決めていくことになりそうだ。

 自家移植は12月に実施した。12月頭にグリーンルームに移動し、12月5日から7日間かけて抗がん剤を投与。ここからクリーンルーム(無菌室みたいなもの)から外に出られなくなる。12日に予め採取しておいた抹消造血幹細胞を移植した。血球の数字が減少し始めて、白血球がゼロの状態が「生着」するまで続き、その間様々な事が起こった。今まで抗がん剤での副作用があまり感じられなかっただけに、今回は結構きついものだった。まず、食欲がなくなり吐き気こそ強くなかったものの、栄養は口からではなく点滴で賄うこととなった。その後は口の中が荒れ、下痢が続いてお尻が痛くなった。中でも、高熱が10日間ほど続いたのが一番辛かったかもしれない。今回の入院生活で学んだのだが、体温も40度を超えると体の震えが止まらなくなり、桁外れに苦しくなる。高熱には解熱剤で対処し、熱が上がっては解熱剤で下げてを暫く繰り返した。少なくなった血小板を補う為に輸血もした。移植後2週間ほどで「生着」が認められ、その後は体調がみるみると回復していった。先生によると回復は早い方だったらしい。12月終わりには隔離状態が解かれ、大晦日には一泊だけ実家へと帰る事ができた。1月にCTスキャンなど各種検査を受け、現在に至る。12月は大変だったが、最後の治療もなんとか無事乗り切る事ができた。 後はもう退院するだけだ。

 入院生活は約半年間。振り返ってみるとあっという間、ということはなくて本当に長かった。特に7・8・9月は辛い日々の連続だった。お腹を切った後の痛み、腸閉塞の痛み、合併症の対処としての外科的な処置の痛み。今まで味わったことのない、様々な苦痛を味わっていた。最初の抗がん剤が全く効かなかった時は、これからどうなるかわからなかった。その時の担当医との面談は決して明るいものではなく、「治るのか」という問いかけに対して「治る」とは言われず、「具体的な数字をお知りになりたい場合はお教えします」と言われた時は、(恐らく生存率の事を言われていたのだと思うのだけれど)病状の深刻さが否応にも伝わってきた。
 ガンの宣告を受けると自然に「死」を意識するようになる。中には、自殺を図ってしまう人、鬱病になってしまう人など、精神的に追い詰められてしまう人も少なくないようだ。私も今まで生きてきた中で初めて「死」というものをより具体的なものとして、より身近なものとして考えることとなった。文学作品を読んでいると2冊に1人ほどのペースでガンで人が死んでいて、もしかしたらこんな感じで自分も急に具合いが悪くなって死んでしまうのかもしれないなと思ったりしたものだが、起こり得る事として理解をする一方で、まだ起こらないだろうという気もいた。楽観的な性格からか、幸いにも精神的な負担はあまり感じずに済んでいる。悶々と思い悩んでいるよりも別のことを考えた方が良い時間の使い方なのではという方針で病室でできることを色々とやっていたのだが、結果的にはこれがよかったのかもしれない。
 最初は効かなかった治療も別の方法に変えてみてから病状が良くなり、余裕ができていった。その後は時間が有り余っていることをいいことに、本を読み漁ったり、Netflixのドキュメンタリー作品をひたすらみたり、期間限定のライブラリーの為に本を選んでコメントを書いたり、オンラインの講座に参加してみたり、オンラインの読書会をやってみたりしたし、長い絶食期間を経て食欲が爆発して、アニメ美味しんぼや食戟のソーマ、孤独のグルメの全話をみたり、食のドキュメンタリー作品をみて気になった人物やお店、調理の技法を調べて食文化のリテラシーを高めたりしていた。入院患者にとってインターネットとは病院の外部に接続できる大きな味方で、入院生活をいくらかマシなものにしてくれた。もし長期で入院生活を余儀なくされた方がこれを読んでいるとしたら、ネットをフル活用して病院という閉鎖的な環境から少しでも逸脱してみることをオススメしたい。

 思い返せば5年前、当時ガンで入院していた大学の恩師のお見舞いに、同期と共に行っていた。今は元気なようで本当に嬉しい限りなのだが、その5年後(私たちガンサバイバーにとって5年とは意味のある数字なのだが)まさか今度は自分がガン患者として、病院で恩師の面会を受けることになるとは思ってもみなかった。人生とは何が起こるのか分からないものだ。
 長かった入院生活も今日で終わり。病と苦痛と戦った日々も、再発するかもしれないし、しないかもしれない今後の5年10年も、これまで生きてきた時間と、これから続くであろう人生の中ではごく一部であって全てではない。何が起こるかわからない人生を、自分なりに満喫しようと思う。

 最後に日々の入院生活を支えてくれた家族・親族をはじめとして、面会に来てくれた方々、励ましのメッセージをくれた方々、本を贈ってくれた方々、急に開けてしまった穴を埋めてくれている職場の方々に感謝致します。また、8月から書き始めたこのnoteでは、病状やその時思った事、治療法(薬の種類も記載した方が親切だっのかもしれないけれど)を出来るだけ具体的に書くように努めました。同じ病気や同じような状況に悩んでいる方々に、多少の参考になれば幸いです。

お読みいただきありがとうございます。頂いたサポートは読書に使おうと思います。