北野 解(Kitano Kai)

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『太宰治賞2023』に作品が掲載されています

第39回太宰治賞の最終候補に残ったので、『太宰治賞2023』に作品が掲載されています。 よろしくお願いします。 北野解『コスメティック・エディション』 【あらすじ】 コンタクトレンズ型カメラを用いたライフログサービス「kaiva」。請負のエディターとして働く希々は、同棲中の青山歌舞斗に不満を募らせつつも、その現状を変えようとはせず追われるような日々を送っている。 着用者の視界がそのまま転写されるライフログの映像素材。人の脳は視覚情報を無意識に選別している、という上司の話に

    • Review「特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~」(ネタバレ有)

      高校の吹奏楽部を舞台とした、京都アニメーション制作のアニメ『響け!ユーフォニアム』(以下、ユーフォ)。2015、16年にTVシリーズで1年生編が、2019年に劇場版で2年生編が制作された。そして2024年4月にTVシリーズで3年生編の放送が予定されている今、OVAとして劇場公開されたのが今作『特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~』だ。時系列としてもちょうど2年生編と3年生編の間の時期にあたる。 アンサンブルとは、吹奏楽において2人以上の重奏のことをいう(劇

      • 【掌編小説】私をつかまえて

         魚だとおもった。  筋肉のかたちに沿って波打つ浅黒いからだ。まるで泳ぐために生まれてきたかのような、必要最低限のフォルム。いくつもの色が混ざり合ったような虹色の海水パンツが、本物の虹を描くみたいに水中を渡ってゆく。鮮やかな熱帯魚。きれいな水のなかでしか生きれないから、教室でのあなたは息が薄い。 「ついてくんなっち言いよるじゃろ」  あなたが私をふり返る。  夏用の制服からのびる腕をふるわせて、本当に怒っているのだとおもった。 「嫌。離れとうないん」 「元からくっ

        • 【すばる文学賞 最終候補作】小説「誰の惑星」第3話(全3話)

          三、誰の惑星  なつかしい発音で名前を呼ばれる。 「森川」のどこにもアクセントを置かない言い方は、今では豊坂以外の声で聞くことはない。あの「サメジマ」と同じ発音。そんな名前の呼び方ひとつで、木平を出てからの長い年月が思い起こされる。 「ひさしぶりじゃの」  笑うでもなく口角を上げる彼は、どういう顔をしていいのかわからないのだと思った。わたしもそうだ。記憶のなかの彼と目の前の彼は、なにひとつ重なるところがない。 「よくわかったね。わたしがあとに来てたら気づかなかった」

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        『太宰治賞2023』に作品が掲載されています

          【すばる文学賞最終候補作】小説「誰の惑星」第2話(全3話)【冒頭無料公開有】

          二、未知との交信  おれもう死のうかなって思うんすよね。  休憩室でお昼ご飯をたべていたら、段ボール箱を抱えた彼がとつぜん入ってきてそう言った。部屋にはわたししかいなかった。 「単位やばくて、進級できないっぽいんすよ。一浪してるしさすがに留年まですんのってまずいっすよね。そもそも親に無理言って大学入ったんすよ。これはやめさせられますね。どうします?」 「須磨くん」 「いや、それだけじゃないんすよべつに」 「須磨くんって」 「なんすか?」 「あんまりそういうこと言

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          【すばる文学賞最終候補作】小説「誰の惑星」第2話(全3話…

          【すばる文学賞最終候補作】小説「誰の惑星」第1話(全3話)【冒頭無料公開有】

          一、2010年宇宙の旅  うーわ、夏って感じ。  体育館裏手の小さな駐輪所には、あきらかに収まりきらない数の自転車がならんでいる。わたしの通学用カブはその奥のほう、自転車のバリケードに阻まれていた。  なんではよ来たやつが不憫な思いせんといけんのじゃ。  朝は八時二十分に予鈴が鳴る。その時点で校舎内にいなければ遅刻扱いにされるから、時間ぎりぎりにやってきた人は駐輪所の通路に自転車を乗り捨てて昇降口に走るのだ。  そのあと自転車は、生活指導の松崎によって狭い駐輪スペースに

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          【すばる文学賞最終候補作】小説「誰の惑星」第1話(全3話…

          【詞】夏のひとさらい

          あの子は過去へゆけるのに いつも平気な顔してる つま先から水に溶け 夏、朝五時の宇宙へ向かう あの子はいっつもソーダ水 口にふくんでいなくなる ビーチサンダル履きかけ やめてナイキのスニーカー 私は怪我をしてるのに いつも平気な顔してる うら若き日の乙女 子供騙しに思えてしまう 私はいっつも後悔 胸につくって痛くなる ビーチサンダルが脱げた ひと気ない道 路地裏 ひとりきり ひとしきり 涙 移動式 ふたりきり ふたしきり 長袖が普段着に 夏の日のおさらい 素肌はやわらかい

          【詞】夏のひとさらい

          【詞】夏の嘘

          どうしたって追いつけないね この波に体を奪われて 周りからとおく遅れて たとえ呼びかけても返答はないのだろう はじめから分かっていたけど 水際がさらう面影をさがす きみだけはどこかにいるはず 迎えがくるから ここで待ってたら それしかわたしには 今、世界の眼前で まぼろしに立ち眩んで 流されることも大前提 夏に欺かれているね 果ては世界の最端で どうせなら蜃気楼にでもなって 夏の嘘に付き合ってるだけ どうしたって裏切れないね 期待のことばに背を押されて 気づいたらそこは

          【詞】kamihate

          窓を開け放って 吹き込むつめたい風 この部屋もすべて 明日には引き払って 壁の日焼け跡も 天井の汚れも 月日をそこに反映 僕を忘れないで 旅立ちは人のため 後に尾は引かないで ずっと嫌われていると思っていた人も もう二度と会えぬかもと思えばつらいが 人は一過性だ 過ぎ去ってこその今日だ 行方もとめて 街をさまよえる亡霊 きみと墓場で どうか僕をつかまえて 本日も成れの果て さらばこの地、上終(かみはて) 明日はすぐそこまで 別れは惜しまないぜ 楽したいわけじゃない ちゃ

          【詞】僕が踏まれた町

          夏の夜は短い だから眠りも浅い あまり日常は冴えない 炭酸がぬけたジュースみたい 期待したりしないでいい映画見たい ここが令和時代 行きたくないから行きたくない ってか自己犠牲って意味なくない? 怒ってばっかの人 意味はなく 他人の唾 口にかかる 履いてるのは他人の靴 気に入らんから改造する 僕に踏まれた町 君の前じゃ空回り 僕が踏まれた町 消えてくれない過ち summer side 遊泳禁止 でも私じゃ分かんないよ? まあ、逆らわんよ 水星人にでもやられちゃたまんない

          【詞】僕が踏まれた町