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アラカン女子、新型コロナに感染する。


1.感染は、まさかの夫から。


「俺、コロナになったから。」

テレワークでPCのキーボードを叩いている最中、その言葉は唐突に投げられた。

一瞬頭の中が真っ白になる。

夫はドアの向こうから続ける。

「今、病院で検査してきた。
とりあえず、薬飲んで部屋から出ないようにって。
凛(猫)のエサ、よろしく頼む。
すまん。」

新型コロナの流行後、私たち家族は人一倍感染には注意を払ってきた。
なぜなら、夫が既存病持ちだからだ。

喘息に肺気腫。
デルタ株の頃なら間違いなく重症化。
命の危険もあっただろう。
だから本人もワクチンは常に誰よりも早く打ち、マスクも常に着用していた…はずだ。

それがなぜ?

「100均で移ったのかなぁ…。床屋かなぁ…」
夫は力無く言う。

いやいや、まてまて。
そこ、マスクしてなかったの?

確かに、コロナも5類になってから、「脅威の殺人ウイルス」から「インフルエンザレベル」程度に格下げされ、ラスボス感が無くなっていたのは分かる。

とはいえ、あなたは既存病ありですよね?
ウイルスがそこにある以上、十分に気を付けるべき人ですよね?

が。
感染してしまったものは仕方ない。
かかりつけ医の見立てでも、逼迫した状況では無いようだし。

取り敢えず医者に言われた通り、夫には部屋に籠ってもらい、必要な物はドア前に置く…という家庭内感染防止策を取る事とする。

2.コロナウイルス感染力強し


「解熱剤飲んでると、割と普通なんだよね。」

ドアの向こうから夫の声が聞こえてくる。

幸い夫の症状は熱だけに留まっており、それも解熱剤で微熱まで下がる程度のものらしい。

ならば。
次は自分の心配をする番だ。

会社には取り急ぎ夫の感染を伝え、5日間のテレワーク申請をする。

仕事はテレワークがメインだが、諸事情があり出勤を打診されていた所だった。
日時指定ありの業務もあり、私が休めば当然誰かが穴埋めをする事になる。

入社3ヶ月の派遣社員の身で、迷惑は極力かけたくない。

感染は防ぎたい…。

下のフロアに住む娘から「ダンナに実家に帰ってもらうから家に避難したら?」と声をかけてもらった。

「土日、出掛ける予定が入っているし、その代わり猫のお世話よろしく」と言う娘。

娘夫婦には本当に申し訳ないけれど、背に腹は変えられない。

悩んだ挙句、発症したら直ぐ戻るという約束で娘宅に一時避難する事にする。


娘宅では常に不安との隣り合わせだった。

夫の感染した日に受けたPCR検査は陰性だった。
けれど夫とは前日に食卓を共にしているし、ウイルスが潜伏している可能性は十分ある。

今発症したら娘夫婦にまで感染の可能性が出てきてしまう。

これまで何となく微熱があるとか、ちょっと喉が痛いとかでもPCR検査を受けてきたくらい心配性な私だ。

色々考えると夜も眠れなくなる。

だがそれも、翌日には終わった。

その日、娘夫婦が外出している最中に寒気が襲ってきた。

コロナを発症したのだ。

3.コロナの症状フルコース


上のフロアに戻り、取り急ぎ夫に事情を伝える。

夫は39度前後の熱が数回出たものの解熱剤で熱は下がり、心配していた呼吸器系も大丈夫とのこと。

それならばと今度は私が薬とポカリスエットを持って自室に引き籠る事に。

症状は38度の発熱の後、まず咳から始まった。

止まらない咳。
コロナのお決まりの症状だ。

でも「死にそう」な程では無かった。
数回受けたワクチンのお陰か、オミクロン株になって威力が落ちているのかは分からないが、数年前に罹った「百日咳的な風邪」に比べるとランク下な感じ。

結局、咳が酷いと感じたのは発症した日とその翌日くらいで、症状は次のステージに進む。

お次は熱。

と言っても、私の場合は発症前に行った病院から処方された「強力消炎鎮痛剤(ボルタレン)」をずっと飲んでいた為、熱は実際どれくらい出たのかは分からない。

ただ、薬を飲むと激しく汗が出ていたし、薬が切れた頃に測った体温は38.5度位だったので、多分それ以上は出ていたのだと思う。

そして症状はまた変化した。

くしゃみ&鼻水。

なぜ発症3日目にしてこの症状が出たのか分からないが、花粉アレルギーか?と思う程のくしゃみ鼻水、鼻詰まりが一日中続く。

けれどそれも長く続く訳ではなく、翌日、症状はコロナ最終ステージへと進んだ。

喉の痛み。

正直、今回の症状の中で、これが一番きつかった。
そして発症から1週間経った今でもそれを引き摺っている感がある。

ではなぜそんな症状が最終ステージで現れたのか?

実は喉の症状は、おそらく私が気が付かなかっただけで最初から進行していたのだ。

気が付いたのは発症から4日目の明け方。
お腹を激しく下した事もあり、継続して飲んでいた消炎鎮痛剤を飲まずに就寝したところ、激しい喉の痛みで目が覚めた。

鏡で喉を見てみると、喉の奥が真っ赤になっており、その奥は白く斑らに爛れた状態になっている。

明らかに、これはヤバい…。

そう。
おそらく熱も痛みも強力消炎鎮痛剤によって抑えられていただけで、ずっと継続してそこにあったのだ。

ネットでググってみると、喉のヤバい症状は「扁桃炎」のそれに当てはまる。

これ、抗生剤飲まないと治らないヤツだよね?

翌日かかりつけ医に相談すると、「抗生剤」と喉の痛みに効く「トラネキサム酸」を処方された。

そして2日後、処方された薬が効いたせいか、ようやく喉の痛みは「大きめの固形物を飲み込む時に痛い」程度になり、喉の奥のヤバい状態も治ってきた。

でもこれではまだ「コロナの症状フルコース」ではない。

まだ残っていたのだ。
お決まりのアレが…。

4.味覚・嗅覚障害ステージへようこそ


それに気が付いたのは、喉の痛みに気が付いたのと同時期だったように思う。

ほぼ毎日食べていた「たまご粥」の味がしない…。
手元にあった「INゼリー」を飲んでみる。
やはり味がわからない。

試しに枕元に置いてある芳香剤を嗅いでみる。
匂いが…しない…。

来てしまった。
プレミアムステージ「味覚・嗅覚障害」へ。

話には聞いていた。
カレーの味がしなくなるとか、スポンジ食べてるみたいとか。
絶対なりたくないと思っていた。

けれどこんな状態は勿論生まれて初めてで、長い人生の中で稀有な体験でもある。

だから、その体験を備忘録として残しておきたいと思ったのも事実。

実はそれが、いま私がこれを書いている理由だ。

5.味覚・嗅覚無しの世界


例えば小説とか映像とか漫画とか。
そこに登場する食べ物や飲み物には勿論匂いも味もない。

私たちはその描写や映像からそれを想像し、味わう事ができる。

今回の感覚もそれに似たものだった。

例えばうどんを食べるとする。
そこには、うどんと卵焼き、椎茸とにんじんが入っている。
汁は醤油味。

それを見た目と食感で味の想像をしながら食していく。

味はないと言ったけれど、甘い系か塩味系かくらいの判断はできるので、それにニュアンスをプラスしていく感じ。

これはうどん。
これは卵焼き。
これは椎茸。
これはにんじん…的に。

すると、2%くらいだけど何となくそれっぽいもの食べてるくらいな気持ちになる。
「全部同じ物です。」とはならない。

だからお腹を満たす程度には、それ程抵抗なく食べる事ができるし、「ご飯食べました」的な気持ちにもなれる。

ただ、ある程度お腹が満たされた後は、それ以上を食べる気にはならない。

たぶん通常ならその先は、味覚なり嗅覚なりが食欲のサポートをして食を進める所を、それが無いために脳が「もういいです」のサインを出してしまうのだろうなと思う。

人間の五感、恐るべし。
この長い人生の中であらためて気付かされた。

ただ一つ付け加えておくと、これも味覚と嗅覚を失って初めて分かった事だが「匂いの無い世界」もある意味「それ程、悪くは無い」。

「臭いストレス」が無くなるからだ。

私はどちらかと言うと「匂い」にも「臭い」にも敏感な方だ。

花や香の匂いに癒される事もあれば、洗濯物の生乾き臭やタバコの臭いなどの生活臭に大きなストレスを感じる事もある。

匂いはそこに空気がある以上、こちらが望むと望まないとに関わらず入り込んでくるもの。
遮る事ができない。

けれど現在、私の周りは「完全無臭状態」。
生活臭無しの世界は実にクリーンだ。

できるなら嗅覚が戻ってくる時に、望む匂いだけ「選択ON」にしたいくらい。
こんなふざけた事言ってると、一生嗅覚が戻ってこないかも知れないので、この辺にしておくけれど…。

6.やっぱりコロナはヤバかった。


コロナが5類になり、街中にはマスク無しの人が溢れて、かく言う私もちょっとコンビニ行くくらいはマスク無しで過ごしていた。

オミクロン株への変異やワクチン接種のおかげで重症化のリスクも激減していると聞き、「もうワクチン打たなくてもいいかな?」くらいに考えていた。

でもいざ罹ってみて思うのは、やっぱりコロナはこれまでのウイルスとは違う21世紀のヤバいウイルスだという事。

味覚・嗅覚障害は6〜8割程度が2週間程度で治ると言われているけれど、私がその中に入れるとは限らない。

さらに今は気付いていない身体のどこかが壊れている可能性だってある。
この先壊れる可能性もある。

そんなウイルスを身体に入れたくは無かったけれど、入れてしまった以上はこれ以上その親戚を中に招き入れないよう、心掛けたいと思う。

もちろん、今回の元凶である夫にも十分に反省してもらって。 






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