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絶望反駁少女 希望のビジュタリア Ⅰ-6

国際舞台

 巨大な室内。巨大なアーチ状の座席にはスーツ姿の代表団。
 さまざまな国籍の人々が入り混じり和気藹々と談笑しているが、彼らは遊びに来ているわけではない。一挙手一投足すべてが駆け引きの場。世界の代表者たちが一同に介する国際機関『グランディオヌム』の重要な会合がこれから始まろうとしている。

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 彼らに囲まれるように設置されているのは意外に小さく、質素な演説台。
 これが時代の節目で常に映し出され、世界じゅうから注目を浴びている舞台だとは、にわかに信じがたい。
 その舞台に立つことになっているのが、我らがお嬢様・一色カスミ様だ。
 俺は護衛として後方に待機することとなるわけだが……
 いやあ日陰者のオレが、まさかニュースくらいでしかお目にかかれないようなところに足を踏み入れるような日が来るなんてなァ。
 
 昨日秘密裏におこなわれた『黄の国』指導者・柴世諾との会合は、この舞台のためにセットされたものだった。二人の間には通訳さえも割り込むことは能わずオレも遠巻きでしか見ることができなかった。
 成功したのか、それとも……会談が終わってからもお嬢様は煙に巻くばかりで判然としなかった。だからオレもアイツがここで何を言う気なのか、まったく知らない。
 
 非公式なやり取りという名の最高レベルの政治的な駆け引きが繰り広げられていたインターバルが終わりを告げた。座席に戻った各国の代表団がギラついた目で主賓の登場を待つ。

「泣く子も黙る敏腕エージェントさんも、さすがに緊張していますか?」
「はっ、まさか。そういうあんたこそ、どうなんだ?」
「緊張など、知覚する暇さえありませんわ」

 それだけ言って、あとは振り返りもしない。これが、この女の強さだ。
 予定よりもわずかに遅く、我らがお嬢様が舞台へと足を踏み入れた。
 万雷の拍手で迎えられる。
 
「ビジュタリア国から参りました特任大使・一色カスミと申します。本日はこのような重大な会議にお招きいただきありがとうございます」

 一呼吸置き、まずは形式ばった挨拶。

「当フォーラムにご臨席のみなさまには既知のとおりでございますが、我が国・ビジュタリアでは急速に少子高齢化が進んでおります。高齢化の速度では我が国が世界ワーストであり、もっとも解決せねばならない課題であります。それはわたくしがいくつか発表した論文でも採り上げさせていただいております」
 
 論文。さすがに『グランディオヌム』特任大使としてこの場に立っているだけの実績はあるってことか。ただの七光りパッパラパーお嬢様だとは思っていなかったが……
 
「我が国はすでにさまざまな改革に着手しておりますが、率直に申し上げまして、我が国だけでは対応に限界もあるというのが実情でございます」
 
 次にお嬢様は、各国に資料に目を通すように促す。

「お渡しした資料はわたくしの論文の抜粋でありますが、少子高齢化という課題は我が国に限った問題ではありません。ここにお集まりになられた方々は充分ご理解なさっていることではございましょうが、大なり小なり、少子高齢化は先進地域を中心にみられる傾向です。中には我が国以上に少子化が進行している国もございます。現在人口世界一のルクソスもそのひとつ」
 
 ルクソス──『黄の国』。オレたちがいる今ここか。
 昨日の秘密会談……なるほど、問題意識を持っているのはお嬢様だけではないってことか。

「このまま問題を先送りしていれば、労働力、食糧、移民、経済格差……これらの社会問題がより深刻な形で立ち現れるということは、想像に難くありません。たとえ現在は表面化していないとしても、これは国際社会が一致して取り組まねばならない課題なのです」
 
 その国際社会を代表しているお偉いさん方がお嬢様に向ける眼差しからは、共通の危機意識が読み取れる。だがここまでは問題提起、現状の確認に終始しているのみ。ここからがお嬢様の『腹案』の見せ所だろう。
 見せてもらうぞ、お前が本物であるかどうかを──

「そこで、わたくしは国際社会が基金を出し合い、一致して解決していく必要があると考えています。『グランディオヌム』を通じて集められた基金をそれぞれの国に少子高齢化対策のために分配する。そのための新しい組織が必要です。ここにわたくしは、世界的な少子高齢化社会に備えた国際組織──World Elder Support PlanWESPの設立を宣言いたします!」

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