【鬼と天狗】第三章 常州騒乱~鳴動(3)
彦十郎家に黄山が訪ねてきたのは、それからしばらくしてからのことだった。十右衛門の手紙が鳴海の元に届けられたのが昨年十一月の十日頃だったが、黄山はあの後も、商用かはたまた藩の密命を帯びていたものか、城下で姿を見かけることはなかった。
「久しぶりであるな、黄山殿」
鳴海は、黄山に茶を勧めながら話を切り出した。
「すっかり遅くなり申しましたが、鳴海様も御番頭への御就任、まことにおめでとうございます」
黄山は、懐から袱紗を取り出した。幾ばくかの金子が包まれているようであり、現在