流れが剥がれて渦になる
飛行機と言えば、小さいころ発泡スチロール製の飛行機の玩具でよく遊んでいました。風に乗るとよく飛ぶので、近所の子と飛行距離を競ったりしていました。
そのうち、飛行距離をどうやったら伸ばせるか、子供なりにこだわるようになりました。標準のパーツだけでは飽き足らず、自分で厚紙やベニヤ板を加工していろいろな形の翼を作り始めました。
今思うとそれが、<span style="text-decoration:line-through;">人生の間違い</span>エンジニア人生の第一歩だったのかも知れません。
そのうち、一緒に遊んでいた友達は、私のこだわりについてこれなくなり、私一人で黙々と飛行実験で遊ぶという、ぼっち体質が育まれていきました。
長い前置きでした。
さて、飛行機が飛ぶ秘密は翼の鋭い後縁にあるということでした。
前回の記事は、
結論から言うと、この後縁が渦を作り出すことにあります。そこで今回は、渦がどのようにして発生するかという話をします。
流れの渦は、流体の粘性によって起こります。「粘性」とは、例えばわれわれが「空気抵抗」として感じるもので、簡単に言うと「流れにくさ」です。
粘性についてもっと詳しく見てみます。
元機械屋なので、機械の例になってしまうのですが、下の図のように「軸」とそれを支える「軸受」の間に潤滑油を満たした「ジャーナル軸受」の、油の流れを考えます。
[図1]ジャーナル軸受の油に働くせん断力
軸受内の油は、ある程度粘度が高く、軸受の表面ではそこにとどまろうとします。一方で軸の表面の油は、軸にくっついて運動します。
この軸と軸受の間の、油の速度を拡大して見てみると、図の右側のような分布になっています。
すると、油の間で速度差を生じている部分には、粘性のある油を引き裂こうとする「せん断応力」が働きます。粘性抵抗の正体は、この流体に働くせん断力となります。
この流体の粘性により、物体表面付近の流れは抵抗を受けます。
物体表面の流れは、以下の図のようになっています。
[図2]物体表面の流れと境界層
表面に接する部分では流速は"0"になり、表面から十分離れたところでは周りの流速と一致します。その間の分布は、図のような放物線状になります。
この速度度差が生ずる部分を「境界層」と呼んでいます。
境界層は、流れに対する物体の先端から後方に行くにしたがって、図のように大きくなっていきます。
この境界層の厚さは、飛行機の翼面では十数mmだそうです。地球表面もその境界層に覆われていて、その厚さは数十m~数百mの厚みになっています。
さて、境界層の流れは、せん断力を受けながら進みます。このせん断力に逆らって流体が運動しているので、仕事をするわけです。
すなわち、粘性のある流体は、
運動エネルギーを、せん断力に対する仕事として消費している
わけです。なので、境界層の流れは、下図のように後方に行くに従い、だんだん速度が落ちてきます(図3上)。そして、ある地点でついに速度がゼロになってしまいます。
[図3]流れの剥離と渦
これは、流れは物体の表面に沿って流れようとするためです。
しかし、せん断力により流れが弱まり、物体の後方で止まってしまっている事になります。流線で言えば、流れが物体から剥れ去ってしまっているイメージです(図3下)。これを「流れの剥離」と言います。
剥離が起こると、物体に沿って後ろに回り込もうとする流れが、その回転を保ったまま、後方へ流されてしまいます。これが渦が起こるメカニズムです。
もう一度まとめると、流れの中に物体を置くと、流れは物体表面に沿って流れようとします。しかし、流体の粘性によって、物体表面の境界層では流体がせん断力を受け、それに逆らって仕事をしながら流れます。
そのためエネルギーを消耗して減速し、物体後方で剥離します。剥離が起こると、物体後方に回り込もうとした流れが渦になり、流れ去っていくわけです。
さて、渦というのは、物体の後方で流体が剥離した結果生じたものなので、流体と相対運動する物体への抵抗を生みます。ところが、翼形はその渦を効果的に発生させ、逆にその渦を利用して揚力を発生させるのです。
次回はいよいよ、翼がスムーズな流れの変化を生むメカニズムについてです。
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