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vol.136 E・ケストナー「飛ぶ教室」を読んで(池内紀 訳)

「子どもの涙は大人の涙より重たい時がある」この前書きに思いを馳せながら読んだ。作品は、ドイツの作家エーリヒ・ケストナーが1933年に発表した児童文学。

「子どもはいつも元気」は、大人が作り上げた思い込みなのだ。どの時代でもそうなのだ。大人以上に親のことで深く悩み、友だちを助けるために工夫を凝らし、お互いの立場を尊重し合う。人生に真っ直ぐに向き合う真剣さがある。作品からそんなことを思った。

内容

クリスマス前、少年たちが学ぶ寄宿舎(小学校4年修了後に9年間学ぶ場所)でのでき事がこの物語の中心。

2003年ドイツ映画「飛ぶ教室」

登場する少年5人の紹介。
ジョニー・トロッツは、ニューヨーク生まれで幼いころに母親が出ていく。4歳の時、ひとりドイツ行きの船に乗せられ、父親からも捨てられる。幼くして社会の矛盾にぶつかり、それは一生忘れられない痛みとなる。寄宿舎でのクリスマス劇「飛ぶ教室」の作者。

マルティン・ターラーは、家は貧しく、父親は失業中。クリスマス帰省の旅費を工面できず、恥ずかしさと悲しみの中、必死で帰省できない辛さにたえる。そんな中、先生に旅費をプレゼントされ、愛情いっぱいの家に向かい入れられる。勤勉家で首席、絵画の才能も兼ね備えている。

マティアス・ゼルプマンは、いつもお腹を空かせている。喧嘩が強く友だち思い。友だち救済のため他校の生徒と一対一の喧嘩の際に、ナイスファイトを見せる。

ウーリは、貴族出身で小柄な体格。臆病でからかわれることもあった。臆病さを払拭したく、はしごの上から傘を広げて飛び降りる。その事件で骨折するが、勇気を示し、みんなから見直される。


僕は臆病じゃない

セバスティアンは、勇敢で弁がたつ。他校との喧嘩の際、交渉役として活躍する。

彼らを支える「正義さん」ことベーク先生、そして「禁煙さん」。最高の教室があった。

(紹介おわり)

特にジョニーとマルティンの言動に、著者が伝えたいことが凝縮されているように感じた。

ジョニーの言葉「どの屋根の下にも人間が暮らしている。・・・幸福は限りもなくいろいろに分けられている。そして不幸も同じように・・・」

マルティンの言葉「なぜ僕たちにはお金がないのか。父さんは他の男たちに比べて怠け者か?違う。僕たちは悪い人間か?違う。原因は何か。世の中が公正でないからだ。そのために多くの人が苦しんでいる。」

ジョニーとマルティンの生きにくさは、大人の都合で作られた社会から来ているのだ。それでも子どもたちは真剣に生き抜こうとする。

この「飛ぶ教室」、かつて子どもだった大人たちが、真剣に生きようとする子どもたちを支えている。大人たちも子どもたちから支えられている。

ナチスドイツ政権下、著者が理想とする最高の教室を描いたのだろう。

いい小説を読んだ。

おわり


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