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冷えている肩を冷やして漁港まで歩いて常夜灯を見に行く

 歩いている景色に飽きることが、もっとも虚しく寂しいことだった。
 同じところをぐるぐるとして、断片的な起点を延々と繋ぎ合わせるには、十分で丁度いい変化さえあればよかったので、放浪の末夜の漁港に辿りつくことが多かった。

 私を居なくさせる現実から目を覚したくて夢を見、夢想の中に居場所をつくった。居場所、というのには偽りがあるかも知れない。私は人気のあるところでも人目を気にしなかったし、汚い吹き溜まりのようなところでも別に平気だったから。だから、どこにも存在など生きれていなかった。

 夢で麻痺していく感覚のままに足は歩き続けた。いったいいつになれば私は夢から覚めることができたのだろう。

 常夜灯の橙や白っぽいあかりを思い出す。私をぐるぐると巡らせる目印で、足下を照らすぼんやりとした暮色。
 それからがたちまち変わってしまうであろう起点を、私は延々と妄想し続けた。海の匂いのなか、からだはただ別の場所に行くために歩き続ける高揚を、海辺の深夜の冷えきった空気へ預けていた。

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