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野球人口減少とラグビーについて。

いよいよ明日からプロ野球はCSファイナルステージが開幕する。西武の相手は宿敵ソフトバンクに決まり、昨年の雪辱を晴らすべく選手たちは牙を研いでいるはずだ。しばらくラグビーモードだったぼくも、明日からの決戦を前に、またプロ野球へと気持ちが高まってきている。


最近のプロ野球は、ソフトバンクやDeNAなどIT企業が経営に参画しはじめてから、サービスやグッズ開発なども充実し、どの球団もファンの満足度を高めながら収入を増やすことに成功しつつある。観客動員は増え続けているし、実際に球場に足を運んでも、平日でも多くの座席が埋まり、客層も昔と比べ女性や子どもが楽しんでいる姿が目立つようになった。


そんな明るく見える野球界だけど、将来は決して楽観視できる状況ではないらしい。野球の「競技人口」が減り続けているのだ。日刊スポーツによると、中学校の男子野球部の生徒数は2001年が32.2万人だったものが、2018年は16.7万人。もちろん子どもの人口が減っているという前提はあるのだけど、たとえばサッカーは22.2万人から19.6万人というから、野球の減り具合がかなり深刻であることがわかる。


その原因についての分析は専門家の方々にまかせるとして、いち野球オタクとして30年以上プロ野球を観続けてきたぼくが、最近ふと感じたことがあった。


それはラグビーワールドカップを観ているときだ。

今回ぼくはスタジアムでも生観戦をしたし、テレビでも結構な数の試合を観ている。そこで一番大きく感じるプロ野球との違いは「ファン」だ。
野球場はだいたい、応援するチームによって観戦する席が分けられている。周囲と一体化して味方チームを応援できると楽しい面もあるのだが、たまに相手チームのファンが紛れ込んでいて、得点したときに喜んだりすると、冷たい視線を浴びることになる。ひどいときはファン同士で罵り合いが始まる。

でもラグビーは、そもそも席が分かれていない。敵国のユニフォームを着たファン同士が隣り合っていることもざらだ。ラグビーファンにとっては当たり前のことなのだろうけど、これは野球やサッカーを見慣れているぼくからすると、なかなかに新鮮な体験だった。どちらかの国がトライを決めると、当然決めたほうは大喜びをするし、相手ファンは悔しそうな仕草をする。でも中には、相手国のトライを称えて拍手をしている人も結構いる。文字通り「ノーサイド」な空間だ。

そして観ているうちに、この雰囲気を生み出すのは、やはり主役である選手たちなのだと思った。試合中はどれだけ激しく戦っても、試合終了の笛が鳴ると、必ずお互いを称え合う。花道をつくって相手チームの退場を送り出したり、敵味方関係なく選手たちが混ざり合って観客席にあいさつをしたり、たとえ自分がどちらかのファンであっても、最後には心から両チームの選手たちに拍手を送りたくなるのだ。選手たちがこれほど相手チームをリスペクトしている姿を見せられると、ファン同士がいがみ合うはずもない。かくして「ノーサイド」な観客席の平和が保たれているのだと思う。


で、これが野球人口減少と何の関係があるかということだけど、このラグビーの選手やファン同士が相手をリスペクトする習慣・光景がきわめて「現代的」というか、公平性や多様性を是とする現代人のマインドにしっくりくるなあと思ったのだ。


かたやプロ野球では、試合が終われば選手はすぐにベンチに引き上げるし、勝ったファンは高らかに応援歌を歌いあげ、負けた方はさっさと球場を後にする。試合中でも、攻撃的なファンがヤジを飛ばすのを聞いて嫌な気持ちになったり、相手チームのファンが得点シーンに喜ぶ様子についイライラしたり、そんな経験がある人も多いのではないだろうか。つまりプロ野球の現場は「相手へのリスペクト」が少ないのである。ゼロとは言わない。でもラグビーと比べると圧倒的に足りないと思わされる。その「自分本位」なスタイルが、少しずつ時代にそぐわなくなってきている可能性はないだろうか。


反対に考えてみよう。真剣勝負を終えた選手たちは、お互いに歩み寄り握手を交わし、健闘を称え合う。そして両方のファンに挨拶をする。スタンドではビジターチームのユニフォームの人も好きな席で応援ができ、ファインプレーが出たら球場全体から自然と拍手が沸き起こる。そんなプロ野球、ぼくは素敵だと思う。


と、ここまで書いて「どこかで見たことあるな」と思った。

そう、高校野球だ。

試合開始と終了時には整列し挨拶をする。各校の応援席は分かれてはいるが、あくまで「自チームの応援」であり、「相手チームへの憎しみ」は存在しない。良いプレーが出たら球場全体で称える。審判への不満は極力見せず、デッドボールには謝り、受けた方は「大丈夫」と応える。そこには「リスペクト」が溢れている。いろんな問題が指摘されている高校野球界ではあるけれど、長年にわたり日本中の老若男女を幅広く惹きつけるコンテンツであり続けているのは、ラグビーとも通ずる「リスペクト文化」が根付いているからではないだろうか。


大好きなプロ野球が、もっと魅力的で、みんなが「見たい」「子どもに目指してほしい」と思えるものになるために。まずは試合終了時の整列と握手から始めてみたらどうだろう。その光景を見たファンは、きっと両チームの選手に拍手を送りたくなるはずだ。

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