第17回 『return』の変化

『risk』は、人の能力に左右される。
それなら、『risk』そのものの大きさは、その人の能力に変化が無ければ、変化しないのだろうか!?
答えは、『Yes』です。
変化することはありません。

しかしそれなら、『return』が変われば、『risk』が変わるのはどういう意味かということになります。
同じ『risk』なのに、『return』が大きければ挑戦するし、『return』が小さければ挑戦しないということの辻褄が合わなくなるように見えるからです。
が、実際のところ、辻褄が合わないということはありません。
なぜなら、『risk』はあくまで確率の存在だからです。

『例えの谷』の丸太橋という危険な存在には、変化はありません。
しかし、そこから足を踏み外して転落死するというのは、個人の能力に基づく確率の問題と置き換えることができます。
この場合の『risk』というのは、丸太橋の存在ではなく、丸太橋から足を踏み外して転落死するということです。
だから、必ず転落死するとは限りません。
必ず転落死するなら、『return』が存在していても絶対に手に入らないのだから、それは『return』にはならないのです。
つまり『risk』には、必ずしも悪いことが起こらない確率を持っているということになる訳です。

ここでしっかりと理解してほしいのは、『risk』というのは危険の存在そのものではありません。
その危険の存在から、自分がどれだけの確率で悪影響を受けるかというのが、『risk』なのです。
だから、悪影響を受ける割合が1割でも、つまらない『return』なら『risk』を冒す必要はありません。
逆に、悪影響を受ける割合が9割でも、とてつもない魅力的な『return』が得られるなら、『risk』を冒す価値はあるでしょう。

このように、『risk』は変化しません。
しかし、『return』によって、変化しているように見えるのです。
ただ、それだけなのです。

また、『risk』と同様に、実は『return』も変化します。
今、例えの谷の丸太橋の前に、高所恐怖症の引きこもりの人が立ち尽くしています。
1億円でも、渡りたくないと思っていた人です。
その人が、どうして今、渡ろうとしているのか・・・・・。

それは、この人の中で、お金の価値が大きく変化したからです。
お金の価値は変化しない。
1円は、いつまで経っても1円のままです。
まぁ、インフレやデフレがあれば変化するのですが、今はややこしいのでそういうことは考えないで下さい。
それなのに、その人の中では変化した。
どういうことか・・・・・。

実は今、価値という言い方を2つの意味で使ってしまっているので、読んでくれている人は混同しているのです。
そこで、片方の価値を重みという単語に言い換えます。

人の中で、モノの重みは絶えず変化しています。
それは、お金も同じことです。
1億円持っている人と、1円も持っていない人にとっての100万円は、100万円としての価値は同じだが、その人の中での重みは全く違います。
だから、1億円を貰ってでも渡らないと考えていた人でも、100万円で渡ろうとすることも起こります。
これは、その人の中で100万円の重みが、1億円と言われていた当時よりも、重くなったからです。

実は、今、私は非常に危ないことを書いています。
と言うのも、『risk』も『return』も変わらないのに、その人の判断を変更させる方法を書いているからです。
丸太橋の存在は変わらない。
丸太橋から落下するという『risk』は、変わらない。
賞金も、100万円で変わらない。

それなのに、最初は渡らないと考えていた人が、渡ろうとする。
これは、その人の中で100万円の重みが変化したからで、言い換えれば、変化させることができれば、人を操ることができるからです。
実は、この変化させて人を操る手法を古代中国では『術』と呼びました。
韓非子は、『法術』で国を支配すると書いていたのですが、その『術』がまさにこれなのです。
ただ、韓非子は『法術』の中でも、『法』を中心に書かれているので、読んだところで多くの『術』を学ぶことはできません。
反対に、『術』を中心に書かれた書物が、申不害が書き残した『申子』です。
ところが『申子』は散逸して現代には伝わっていないので、残念ながら読むことはできません。

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