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読んだ:「やさしいレタリング」  ついでに手書き文字の話


先日手書き文字の話になりまして、そういえば少し前に手書き文字の練習するのに使った昭和本があったなと思い出して読み直してました。

やさしいレタリング1977年初版です。昭和52年です。出版は俺たちのマール社。

マッキントッシュの出現が1984年ということで、たぶんまだまだデザインが手作業だった時代です。看板もポスターも手書き、印刷の原本も組版で印刷の修正指示はトレーシングペーパー、デザイナーも漫画家も太い直線はカラス口で引いていた時代です。

なのでそこそこのページ数でカラス口の使い方やポスターカラーの使い方のページもある。


aiつきカメラで撮ったら白目と唇が盛られた

本文は今のおしゃれ作字本や美文字本では全然書かれていない、「フォント的な文字を手で書くコツ」「勘所」が満載です。おもしろーい。

手書き文字には大きく言うと、筆で綴られてきた「行書体」とそれをベースとした「楷書体」の書体、それとは違って印刷用に開発されたと思われる「原字体」があります。後者は一種のゴシック体ともいえます。

左は「筆記体」ってかかれてますね 楷書でもあります

行書、楷書は「文字のふところが狭い」、原字体は「文字のふところが広い」文字。美しさはふところが狭い文字、読みやすさは広い文字。メイリオはかなり広くて読みやすさが高く、識字障害でも読めることで有名なユニバーサルデザインフォントもふところがかなり広いです。

Fontビギナーズガイド5「骨格・ふところ・重心」より引用


Fontビギナーズガイド5「骨格・ふところ・重心」より引用

義務教育で習得する文字は楷書体であり、このころの感覚のまま大人になってとくに「良い」字を書こうと決めたタイミングのない人は楷書をくずしたかんじの可読性の低い文字になることが多いようです。
女性はコミュニケーションの段階でかわいい系フォントを習得するけど、男性は楷書ベースのままになりがち。
(余談ですが男性漫画家で「この作家、これだけ高度なデッサン力で男子小学生みたいな文字なのなんでなんだろう」ていうのも、そのあたりが理由な気がしてます。習得した時期からアップデートをしていない)

こういう「とにかく正方形にぎっしりすればいいわけではない」が書かれた本、あんまりない、今は

で、私もそういうかんじで、手書き文字があまり得意ではなくて、でも文具が大好き、けれどおのれの手書き文字の可読性が最悪……丁寧にゆっくりかけばいいのかと思ってもそこに現れるのは丁寧にゆっくり書かれた可読性の悪い文字…… ということで、レタリングっぽく文字を書けばいいんじゃない? と思い至って、古書店でこれを買ったのでした。

これが手書きなのまじでおそれいる

もともとデザインの専門学校にいたのでカラス口やポスターカラーの演習もあり(今はやってんのかなあそういうの)、いわゆる楷書ベースの美文字には全く憧れないしむしろああいう文字は書きたくない、美しくなくていい読みやすければいい……で、参考にする書体はフォント、かつそれを手書きでやるレタリング、というのは当然の帰結だったんですね。


これ左の縦書きのやついま一周して流行ってるやつに近い

デザイナー、レタリング、手書き、といえばデザイン事務所出身の鳥山明が初期の原稿で書き文字をレタリングの技法で仕上げていたというのも有名な話です。

フリーフォントの教科書体も少し検討したりしたんですが、やっぱり楷書体にはあまりあこがれず、むしろドンキホーテの文字(POP文字ってやつですね)とかメイリオとかのほうが好きだしそういうの書きたいなー、で、本書とこの本も見本にして軽く練習などして、だいぶましになりました。

ところでこの「ふところ大きめに持つPOP文字っぽい書体」は昭和の実用書でもよく見るんですよね。あと古い漫画家の手書き文字も。
サザエさんの原作漫画なんかもまさにそういう文字。

この右ページの「錯視調整」の話、ほんと今のフォント本にはぜんぜんない……と思う

なんかあるんだろうな……なんか、可読性に関わるなにかのルーツが……楷書体とは全然ん違う、「印刷」の時代になって現れた形の文字だし……
そういえば英語のブロック体っていうのも印刷時代に出現した文字で、それ以前は筆記体しか存在しなかったと聞いたことがあります。なんか、あるんだろうな。

今回ひさびさに引っ張り出してぱらぱら読んでたんですが、やっぱり面白かったし、こういう「それぞれの文字の大きさ」や「原書体」に言及してる作字本、あんまり売り場で見ない気がする…… 今は絶版になってる本書ですが、なんかの形で復刊してもいいのになと思いました。

で、本書での勉強後。私の文字は美しくも高度な可読性も備えてはいませんが、「ゆっくり書くときにどうすればいいのか」の基礎の基礎はなんとなく身についてくれたように思っています。本書とPOP練習帳を使って、方眼ノートにユニオンスクエアガーデンの歌詞(好きだから)を延々と書き続けて「こんなかんじか」をうっすら体得しました。まあ日常にはそれで十分です。

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