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サマータイムの導入が日本を滅ぼす理由

2020年のオリンピックに向けて、サマータイムの導入が検討されているそうです。健康に悪いとかもっと早くから試合を始めればいいじゃないかとかいろんな意見がありますが、もし本当にサマータイムが導入された場合、IT系の一部の会社にはたくさん仕事が入ってくる可能性があります。日本中にある多くのシステムはサマータイムを考慮していないため、そういったシステムが動かなくならないように、チェックして直す必要があるためです。こんなふうに一時的に仕事が増えることは業界の用語で特需と呼ばれます。2000年問題がわかりやすい例ですが、サマータイムの対応は対策にかけられる時間が短いことや、影響を受けるシステムが2000年問題の時よりもはるかに多いため、とんでもない人員とお金がサマータイムの対応に費やされることになります。

こう聞くと中には、儲かるならええじゃないかという人もいるかもしれません。わたしもいちおうその業界の中にいるのでもしかしたら仕事が増えるかもしれませんが、実際のところ1ミリも嬉しくありません。なぜかというと、サマータイムの対応でお金がもらえても、新しい価値を何も生み出さないからです。サマータイムの導入は2年限定ということらしいですし、システムがサマータイムに対応したからといってATMの機械がサマータイム・ブルースを歌ったりしないし、私たちの生活が特別豊かになるわけではありません。

なぜ新しい価値を生み出さないものにお金を使ってはいけないかについて、これから人が幸せになるためのルールを説明します。

人が豊かな生活を送るにはお金が必要です(お金があれば幸せになるわけではないということはわたしもよく知っています。ですが食べるものに困る生活よりは幸せといえるでしょう)。お金を稼ぐには、他の人にサービスをしたり商品を作って売ったりして、価値(幸せ)を提供することで、その対価としてお金(収入)を得ることができます。一般的には、提供する価値が大きければ大きいほど、たくさんお金をもらうことができます。ここでいう価値とは、他人に提供できる幸せの総量であって、高級品であるという意味ではありません。100万円のダイヤの指輪と千円のガラスの指輪があったとして、ガラスの指輪を買う人がダイヤよりも千倍いるとしたら、提供する価値は同じです。

けれども中にはあまり価値を生み出さないけれどもたくさんお金をもらえる人もいます。

反対に、たくさん価値を提供しているけれども、あまりお金をもらえない人もいます。

自分がお金を持ってて、かつ周りにたくさん価値を提供してくれる人がいると、生活が豊かになってきます。ここで大事なのは、自分ではなく、周りの人がたくさん価値を生み出してくれるおかげで豊かになれるルールということです。

最初は狭い地域だけで価値とお金の交換をしていましたが、それだと買えるものが限られてしまいます。そこで政府が公共工事をして、遠くまで橋をかけたり高速道路を作ることで、別の地域に出かけたり、ものを買ったりすることができるようになりました。そうすることでお客さんが増え、新しい価値がどんどん提供されるようになります。日本がとても豊かだといわれていた時代がこんな感じでした。

ところが、海外の便利なものが手軽に買えるようになったり、ひととおり必要なものを手に入れたりしてしまうと、欲しいものがだんだんとなくなってきます。ものが売れなくなると対価として得られるお金も減っていきます。それでも政府は老朽化した施設を修復するために公共工事をして、仲間の業者にお金を送り続けます。そういった人たちは新しい価値を生み出すことはありませんが、お金を持っているのでいつも偉そうな顔をしています。

ある時、政府はもっとものが売れる方法はないかと考えて、お金の代わりになる商品券を発行して、国民に配ることにしました。ただし商品券をもらうには長い時間、列に並ぶ必要があります。当然列に並んでいる間は仕事や育児をして価値を生み出すことができません。働けない老人が増えたので、税金も上げることにしました。生活に困った人たちの中には、自分だけ幸せになりたいと思って価値のないものを高いお金で売る人も出てきました。

こうして誰もが欲しいと思えるような価値を生み出す人がほとんどいなくなりました。お金を持っている人もいましたが、自分だけお金を持っていても欲しいものがないので使いみちがありません。結果、誰も幸せにはなれません。

今サマータイムを導入するということは、日本中にいるソフトウェアのエンジニアをこの先2年間、なんの価値も生み出さないサマータイムの対応に貼りつかせるということです。彼らの中には、新しい技術を使って今世の中にない新しい価値を作り出そうとしている人たちがたくさんいます。そういう人が価値を生み出せなくなると、いくらお金を刷って配ってもいつまでたっても貧しい世の中のままになります。オリンピックの競技時間を2時間進めるためだけに彼らの邪魔をするということは、将来にわたって社会に大きな損失を与えるということです。本当にサマータイム導入にものすごい経済効果があるというのであれば、2年限定でなく恒久的な施策として費用対効果を考える必要があります。ただでさえ元号の改元や、消費税の軽減税率制度とかいう難解な仕組みの導入が決まったせいで、今まさにエンジニアや小さい事業を営む人たちの生産性が奪われています。働き方改革とか叫んでいる偉い人はその認識を持っているでしょうか。

こんなご時世ですからなんとなく自分が儲かればいいやと思いがちですが、この仕事は誰かを幸せにしているのだろうかと問いかけていないと、気づいたら自分に価値のあるものを与えてくれる人はひとりもいなくなっているかもしれません。