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シーソーシークワーサー Ⅱ【68 誤差非礼 】

【シーソーシークワサーⅠのあらすじ】

 母を亡くし、その孤独感から、全てを捨てて沖縄から出た凡人(ボンド)こと、元のホストの春未(はるみ)。

 一番に連絡をとったのは、東京の出版社に勤める絢だった。

 絢に会うまでの道のり、人々との出会いで得たことは何だったのだろう。島に帰った凡人は、母亡き後の、半年間時が止まっていた空間に佇みながら、生い立ちを振り返っていた。

 生前の凡人の母、那月は凡人を守って生き抜くために、様々な選択をする。

 沖縄から遠く離れた本土の片田舎で育った凡人の母、那月。母の重圧に耐えかね、家を出た。家出少女を何も聞かずに受け入れたMasaとその妻、順子。Masaは那月に3ヶ月で売り上げを3倍にすることを条件に、次の日から衣食住の提供と引き換えに那月を自分の古着屋で働かせる。

 その店に決まって現れる女とMasaの関係に気づいた那月だったが……


Ⅱ【68 誤差非礼 】

 最後に礼ぐらい……。那月にその気持ちが無かったわけではない。それよりも、約束と条件の確認を蒸し返し、話が平行線になって、結局、Masaのところに居ることになるのだけは避けたかった。

 ほんの2ヶ月前、那月がここに現れた日は、何も持っていなかった。そればかりか、着ていた制服を脱ぎ捨てた。出ていく今日は、旅行鞄1つ分。そして、2ヶ月と少しで得たありったけのお金。最後に順子が握らせた札束が、少しだけ、重い。

 これからこの夫婦がどうなるのか、チラリと考えてみたが、それも無駄なことだとわかると、那月はもう何も考えないようにした。自分の行く末も定まらぬ小娘に20以上離れた男女のこれからの関係など、心配されたくもないだろう。

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