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何が法人設立ワンストップサービスじゃボケ【出版社を作ろう10】

人は何のために生まれるのだろうか・・・


誰かを愛するため? 夢を叶えるため? 真理を追い求めるため? 世界を変えるため?


・・・違う。


書類を書くため、人は生まれてくるのだ。




前回の続き。

PCが届いた。WindowsのPCがないためにワンストップしていた手続きを再開した。

経緯をすべてスクショに残して実況しようと思っていたが、無理だった。そんな気力が残っているなら住所を入力するために残しておきたかった。

この作業がどれだけの地獄であったかを説明するには、1つの事実をお伝えすれば事足りる。入力フォームの最初、この手のフォームによくある分数が表示されていた。

1/36」という表示である。

これを見てどう思うだろうか? 一般的な感覚の持ち主であれば「あ、36項目入力すればいいのね・・・ちょっと多いけど頑張ろう・・・」と感じるだろう。

もちろん僕も一般的な感覚の持ち主である。そのように感じた。しかし、項目を入力していっても数値が更新されない。一通り入力し「次のページへ」をクリックする。すると次は「2/36」と表示される。僕は気づいた。

36項目ではない。36ページ入力する必要があるのだ。

1ページ当たりの質問数は体感的に10といったところか。つまり、概算で360項目を入力する必要がある。

あらかじめ断っておくが、これは性格診断のようにサクサクと回答できる類のものではない。この入力内容によって納税額やら資本金額やら重要な事柄が決定される。一文一文読み込んで、確認して、入力していく必要がある。

いや、死ぬって。

これをワンストップで入力できるなら、その人の心はおそらく鉄かダイヤモンドでできている。人間の心臓を持つなら、こんなものを攻略できるわけがない。

しかも、文章はわかりにくいし、半角か全角かで突っぱねられるし(「半角で入力してください」などの注意書きがあったりなかったりする)、同じ内容を何度も入力させられるし(住所は500回くらい入力した気がする)、とにかく死ぬほど使いづらい。1ページ平均4~5回はエラーに苦しめられていたのではないだろうか。

日本国が僕の起業を全力で阻止しようとしている。起業そんな印象を抱かずにいることは難しい。

32歳。世界を変えようという意欲に燃えた青年が私財をなげうち一念発起して企業をする。事業内容や結果はどうであれ、このようなパッションは日本国を再び輝かせるために欠かせないはずだ。それなのに、夢へと駆け出そうとした僕の行く先には灰色の官僚たちが立ちふさがり、書類の不備についてネチネチと文句を言ってくる。

僕は「もう好きにしてくれ・・・」とすべての自由意思を放棄したい気分になった。心を殺して何十回、何百回と社名を入力し、住所を入力する。なんのために入力しているのか、もはやそんな疑問すら抱くことはない。きっとこのまま税務局や法務局の役人連中に「パンツを脱いでキンタマにマイナンバーカードをあてて読み込め」と言われても、僕は何の疑問も抱かずに従うだろう。

法人が立ち上げられるたび、そしてそれ以降もきっと、日本中でこの手のやり取りが毎日行われている。僕が入力した書類は誰かがチェックし、不備なるものを見つけ出してはイライラしながら指摘する。そして僕もイライラしながら直し、また不備が登場しては指摘される。このプロセスには、情熱に燃える32歳の青年だけではなく、花盛りの10代~20代を机にかじりついて必死で勉強してきた社労士や税理士、国税局や法務局に勤めるエリートたちがかかわっている。そしてきっと中小企業の事務室では、愛とユーモアに溢れた母親たちも参加している。そのころ大企業では、華々しいキャリアを思い描きながらリクルートスーツを身にまとっていた若者が、これから40年書類の上で終わりのないもぐらたたきを続けなければならないという運命に気づきはじめる。誰もがイライラを募らせ、頭を掻きむしりながら。

これらの作業に、いったいどれだけの才能が、どれだけの創造性が奪われたのだろうか? その結果、打ち込んでいるこの作業は、誰を幸せにしているのだろうか? なにを守っているのだろうか?

いやきっとなにも守ってはいない。ただただ死んだ目をしながら書類手続きに忙殺される人々で事務所を埋め尽くす。それだけである。

まるで官僚制の悪魔が人々を操ってゲームをしているかのようだ。悪魔は19世紀か20世紀の初頭ごろ、人間の人生の何割をブルシットな書類仕事で埋め尽くせば、人間がギブアップするかを恐る恐る試し始めた。だが人間はやってもやっても全く音を上げる気配がない。むしろやればやるだけそれに憑りつかれていくようだった。

官僚制の悪魔はケラケラ笑いながら友人たちにこう言っただろう。「おい、見ろよ! こいつらどれだけでも書類書くぜ!! 馬鹿じゃねぇの!?」。友人たちはさらにそそのかす。「もっとやらせてみようぜ!!」。もはや悪魔たちに怖いものはない。際限なく書類仕事をやらせても、人間たちはせっせと空欄を埋めていくのだから。きっと全人類が朝から晩まで書類を書き続けることになっても、なんの疑問も抱かないだろう。疑問を抱くことがあるとすれば、書類の中身に不備があるかどうかだけである。誰も書類そのものに疑いを向けることはないのだ

デジタル庁よ。税務局や法務局の官僚たちよ。事務室を埋め尽くす企業官僚たちよ。そして僕自身よ。お前たちは悪魔のおもちゃに過ぎない。涎と泥で塗りたくられては公衆便所に捨てられる愚かなマリオネットに過ぎない。そこに自由などあるはずはない。子どもたちの頬にキスをすること、友人たちと温かな食事を共にすること、木漏れ日の下でヘミングウェイを読むこと。それらは人生のかりそめの小休止にすぎない。そんな無駄な時間を過ごすくらいなら書類を書け。書類を書き続けるために僕たちは生まれてきたのだから。さぁ、書類を書け。書類を書くのだ。


1回でもサポートしてくれれば「ホモ・ネーモはワシが育てた」って言っていいよ!