話すことがないのは、その人に興味がないから

「‥何か、料理とかされるんですか?」

シャンプーを流し、ドライヤーを当て終わるまでの長い沈黙を破って、美容師が唐突に僕に質問を投げかけた。

別に僕は髪を切られながら料理雑誌を読んでいたわけでも、エプロンをつけていたわけでもない。つまり、なんの脈絡もない。

僕は数年に一回しか美容院に行かない。数年に一回なので、行きつけの美容院も特になく、馴染みの美容師もいない。当然、この発言をした美容師とは初対面だ。これまで料理の話をしたことがあるわけでもない。

それなのに、美容師は料理の話を切り出し、不器用にもその話を継続しようとする。

「まぁ、人並みにはしますかね‥」
「へぇ、最近は何作りましたか?」
「最近だと、唐揚げを作りましたね」
「唐揚げ、美味しいですよね」

当時の僕はヴィーガンではなかったので、唐揚げを作ることもあった。その話をした結果、「唐揚げは美味しい」という至極当たり前な意見を引き出してしまった。当然、僕から述べるべきコメントは何もないので、僕は沈黙を選んだ。

美容師は沈黙に耐えきれなかったのか、恐る恐る会話を続ける。

「カラッとしているやつか、しっとりしているやつどっちが好きですか?」
「まぁ、カラッとしている方ですかね?」
「へぇ‥」

僕は唐揚げに対しては一家言持っている。小麦粉を使うか、片栗粉を使うか。2度揚げや、下拵えについても、詳しくこだわりを語る準備はある。しかし、もし興味があればの話だ。

興味があれば「へぇ‥」の続きの質問が繰り出されるはずだ。しかし、その後、会話は途絶えた。


おい。興味がないなら、聞くな。


よく「仲良くなりたいけど、会話が続かない」みたいな悩みを聞くことがある。そんなことを言う人は、本当に仲良くなりたいと思っているのかどうか疑問だ。

仲良くなりたいなら、興味を持っているということだ。興味を持っているなら、聞きたいことは山ほどあるはずだ。

僕が仮に大好きな唐揚げ専門店の店長と会話する機会があれば、食材のことや調理法のこと、油の温度のこと、設備のことなど、なぜ唐揚げ専門店を開こうとしたのかなど、あらゆる角度から質問を繰り出し、そのこだわりや哲学を知ろうとするだろう。

それは興味があるからだ。

もし仮に話すことがないのであれば、それはその人に興味があるのではなくて、その人が持っているお金や権力、コネクションに興味があるだけなのだ。あるいは、例の美容師のように単に沈黙を埋めたいだけに過ぎない。

余計なことを話すくらいなら、沈黙の方がいい。

もし本当に話を続けたいなら、その人に興味を持てばいい。興味があるなら、いくらでも知りたいことは出てくるはず。そして、聞けば聞くほど、新しい疑問が生まれてくる。

もちろん、聞いても聞いても頑なに口を開いてくれない人もいる。そんなときは、その人が話したがるテーマを探すのも良いけど、それでもどうにもならなければ無理に会話を続けたところで意味がないので、さっさと切り上げれば良い。

会話なんて、そんな程度でいいんじゃないだろうか。

1回でもサポートしてくれれば「ホモ・ネーモはワシが育てた」って言っていいよ!