問う力を失っていく外資系コンサル企業について

外資系コンサルで働いている方も、そうでない方も、『whyを繰り返す』等を一度は耳にしたことがあるのではないかと思う。本屋に多数並んでいる外資系コンサルのノウハウ本にも書かれていると思う。

私が入社した時(数年前)も繰り返し言われた。
『whyとhowを繰り返せ』。そして上司や先輩であっても『ストレート』に発言し、ディスカッションしろと。

一方で今、外資系コンサルティング企業から『問う力』が失われていっているのではと感じでいる。
それは、以下の事例などからの推察である。

  • 社内のミーティング中、管理職クラスが一方的に指示を出すのみであり、『質問があるか?』と聞かれてもスタッフクラスは無言

  • スタッフからの質問・提案を、ディスカッションのきっかけではなく、スタッフの理解不足で自分の時間が取られると捉えたり、自分の指示への否定と捉える管理職の増加。

  • 私自身の体験として、クライアント会議後の内部ラップアップ会議等(オンライン会議)に遅れて参加し、一方的に指示だけを出し『じゃ、僕の言いたいことは言ったから』と退出する管理職もいたこと。

  • 私自身の体験として、PIPの最中、クライアントファーストの観点から上司の指示に異を唱えたことについて、役員から『上の方が視野が広いはずであり、上に従うべきである(そのケースにおいてどのように視野が広いのかの具体的説明はなし)』と叱責され、PIPの達成基準を明確にして欲しいと求めることなどについて『血気盛んで社歴の浅いスタッフのようだ』と揶揄された。

疑問点・違和感を上に問うこと、よりよいと思ったことを上に提案することは、いつからマイナス評価、揶揄の対象となったのだろうか。

問いを妨げるもの

梶谷真司教授の『問うとはどういうことか』という本を読んだ。
問うことに抵抗を感じる理由として、以下の5点が挙げられている。

  1. 問うのは『歓迎されない』(質問をすると、頭が悪い・態度が悪いと受け取られてしまう)

  2. 問うのは『攻撃的』(『何でこんなことも出来ないんだ』等、誰かを攻撃する時に問いが用いられることがある)

  3. 問いは『与えられるもの』(上から『これについてどう思うか?』等を問われることが多く、質問者の期待に応じた答えを返さなければならない緊張を強いられる)

  4. 問うのが『面倒くさい』(自分が問われるのが嫌だから、自分が問う際にも、相手にどう思われるかが気になり問うことを躊躇する)

  5. 問うのは『怖い』(問うと『こんなことも知らないのか』と馬鹿にされるかもしれず、分かったふりをする方が安全である)

まず思ったのは、上記の1~5を振り払い、問う力を重ねていくためには、『whyとhowを繰り返し』、上司や先輩であっても『ストレート』に発言し、ディスカッションする文化は有効だったのではないだろうか。そして今、その文化が失われつつあり、上記の1~5により、外資系コンサルの『問う力』が失われつつあるのではないだろうか。

何故、『ストレート』に発言し、ディスカッションする文化が失われたか

昨日、X(旧Twitter)で興味深い記事を教えていただいた。

Googleで18年間勤務した元社員が「Googleの文化は変わってしまった」と嘆く長文を投稿して話題に - GIGAZINE

この中に、「Googleのリーダーたちは、財政的責任を果たし、効率的であろうとしているだけなのです。」「初期の従業員たちはイノベーションを起こす手段として「早く失敗する」ことをよく奨励し合っていたが、失敗すればレイオフを意味するような環境では、もはやそれは容易ではありません。」という文がある。
この文を読んだ時、スタッフの残業時間の削減を求められる管理者から聞いた「作業効率化のために、若手に『トライアンドエラー』で挑戦させる余裕がなくなった」という言葉を思い出した。

ストレートに発言し、上司や先輩とディスカッションして自分の考えを磨いていくのも、ある種の『トライアンドエラー』だろう。
だが、会議の効率化を考えれば、上から下に一方的に指示を与えるだけの方が早く終わる。短期的に見れば上の負担も少ない。
そして若手からすれば、「失敗」してしまうと上司から低い評価(PIPを含む)を受ける可能性があり、安全策(上からの指示のとおりに従う)を取りがちになる。

問題はその代償だ。
休職前、「若手のクライアント対応力の低下」を嘆く管理職の声を何度も聞いた。
だがそれは当然の帰結ではないだろうか。社内のディスカッションで鍛えられていない若手が、クライアントに対して意見を述べられるだろうか。
外資系コンサルは時に”高級文房具”とも揶揄される。クライアントに対して、自ら考えて意見を持つことが出来ず、上司に言われた時と同様にクライアントが求める対応を行う。
外資系コンサルは、まさに”高級文房具”に近づいているのではないだろうか。

未来像について

うちの会社は、DX推進やAIの活用等に力を入れている。
従って、今後も進化し、存在し続けていくと思う。
だがそれは会社としての”パッケージ”や”提案コンテンツ”での優位性であり、個々のコンサルタントのコンサルティングスキルとは別だろう。
それは”コンサルティング”企業なのだろうか。クライアントのニーズに合わせた商品を開発する事業会社との違いは何だろうか。

環境に合わせて様態を変えていく。企業としてそれは生存戦略の一つだろう。そのことについて善悪はないと思っている。
だが、かつての”外資系コンサルティング”イメージで入社を検討している人には、入社後にギャップを感じることがないように、今働いている社員たちの声を聞くことをお勧めしたい。


補足:私の『問う力』も未熟である。その自覚はある。だが、だからと言って問うのをやめるのではなく、問い・書くことを重ねて磨いていきたい。

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