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二重国籍の勘違い

 国際結婚で生れた子どもが成人した場合や、本人の意思により外国籍を取得した場合に日本国籍はどうなるのか。また、パスポート発行の可否についてなど、様々な憶測や勘違いが飛び交っています。私も理解するまでにはかなりの時間が必要でした。


二重国籍問題は3種類


 国連加盟国の約8割が重国籍を認めている中で、日本は重国籍は認めないという立場を取り、日本国籍を放棄させられる人がいます。

 二重国籍問題に関係する3種類の人がいます。①国際結婚や出生地主義で生まれながらに複数の国籍のある人。②成人してから、または未成年時に親の意思で外国籍を取得した人。そして③日本に帰化する外国人です。

 二重国籍に反対する日本人の意見には、「スパイが増える」「戦争があったらどの国に味方するのか」というものがあります。まるで二重国籍者は日本を裏切る人間だと言わんばかりです。ある日本の番組で、二重国籍反対の大学教授が「上級国民だけが恩恵を受けるのは不公平」というのを聞き驚きました。今の時代、「外国に住む人は上級国民」などとは時代錯誤的な発想ですし、他人が自分より得するのは許せない妬みの気質が見えました。

国籍はく奪条項違憲訴訟とは


 現在、海外在住者を含む複数の人たちが、外国籍を取ったことで日本国民でなくなり、パスポートを発行してもらえないのは違憲であると、国を相手に訴訟を起こしています。しかし、敗訴や上告棄却が続いています。明治32年にできた国籍法第11条の「日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う」という法律が未だに合理的であるとの理由からです。

 しかし、これだけ国をまたいで移動や移住する人、海外で活躍する日本人が増えた現在でも、明治にできた法律を存続させるのはかなり無理があります。外国で仕事に就いたり、事業を起こしたり、また、不動産を購入するには現地の国籍が必要な国がたくさんあります。

 外国籍を取り法律的に外国人になったことで、コロナという有事の際に、日本の親の急病時にすぐに入国できなかったり、遺産相続手続きに困難を生じたり、老親の資産管理が困難だったりと、かなり深刻な問題が生じています。また、生活面だけでなく、日本人でなくなったことで精神的なダメージを受ける人もいます。

 才能を開花させるために外国籍を取った人が日本との絆が断ち切られることで、日本に恩恵をもたらせなくなります。アメリカ国籍を取得した「元」日本人研究者がノーベル賞を受賞し、新聞が「日本人がノーベル賞受賞!」と騒いでも、日本の法律によると彼らは日本人ではありません。知人で、日本の親に送金するために残しておいた銀行口座を閉めるように言われた人もいます。

生まれながらの二重国籍者は例外


 国際結婚などで生まれながらに二重国籍である子どもは、成人後20歳までに(以前は22歳)「国籍選択」するようにというキャンペーンを聞いたことがあると思います。それゆえ、未成年時代は二重国籍でも大丈夫ということは知っていても、大人になったら外国籍を捨てないと日本国籍は消滅すると思っている人もいるようです。そして、外国籍を保持している場合、日本で長く滞在したり就業するにはビザが必要だと思っているようです。

 しかし、実は、彼らは生涯二重国籍のままでよく、日本での就業や長期滞在も制限はありません。国籍選択しなくても国籍をはく奪されることはありませんし、罰則もありません。彼らは前述の自分の意志(または親の意思)で外国籍を取った人とは区別されています。これも日本の国籍法がグレーで誤解を与える理由となっています。

パスポート発行について


 生まれながらの二重国籍の子どもは、成人したら、国籍選択届を出さないと日本のパスポートは発行してもらえないと思っている人も多いようです。国籍選択をしなくても、日本政府は日本国民へのパスポート発行を拒否できません。すなわち、彼らは成人してもパスポートを2つ持ち続けることができます。しかし、前述のように、自分の意志で外国籍を取った人は、日本国籍がないということでパスポートの発行は拒否されます。

 2023年からオンラインによるパスポート申請ができるようになり、今まで申請と受け取りに2度在外公館へ出向かなければいけなかったのが、1度で済むようになりました。旅券申請書には「現在、外国籍を有していますか」という質問があり、そこに「はい」と答えても、「帰化申請又は国籍取得届出」以外の3つの部分にチェックを入れた場合は申請を拒否されることはありません。ただ、旅券申請の受領が可能かどうかの確認のため、申請時に、生まれながらの二重国籍者は現地国の出生証明書(カナダならBirth CertificateやCitizenship Card)、日本国籍のみの方は、外国籍は取得していないという証明(カナダだとPRカード)が必要です。

 こちらの「国際結婚を考える会(JAIF)」のサイトに分かりやすい「日本国籍法チャート図解」がありますので、URLを貼っておきます。 https://www.kokusaikazoku.com/_files/ugd/3fa981_a1f1e15a038e4369ac91ad267fe7d974.pdf

 最後に、海外で日本人に子どもが生まれた時に、生後3か月以内に現地在外公館に届け出をしなかったために日本国籍を持てなかった人がたくさんいます。親が法律を知らなかったり、お母さんの産後の体調が良くなかったりという場合もあり、たった3か月という猶予期間はどう考えても短すぎます。

この記事はカナダ日本語情報誌『TORJA』連載コラム『カエデの多言語はぐくみ通信』2024年1月号に寄稿したものです。 ☞ https://torja.ca/kaede-trilingual-36/

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