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やりすぎた天使とサマーボーイ

冬だから夏が恋しくなるのか、それとも夏がやっぱり特別な季節なのか。ドレスコーズが『戀愛大全』をリリースしたのは、季節が変わった10月の終わりのこと。夏をテーマに「架空の短編映画のサウンドトラック」がコンセプトの今作で、M3「やりすぎた天使」を聴くたび思い出すのは、夏に無敵感を感じていた大学生の時のことだった。

志磨遼平が歌う「遊んでいるばっかで イッツオーケー」な毎日。口を開けば「金がない」の大学生。サークル棟でウダウダ寝っ転がり、たまに誰かが持ち込んだ音楽の話で盛り上がり、気づけばまた麻雀を打っている。「今日も午前中は人が少ないな。みんなテスト前で授業を受けているしそりゃそうか。そしたら先に飲んじゃうか」とアホな僕はアホな友人と昼から飲んでいた。

下北の古着屋で買った¥2,000のアロハ、それを着られる期間が夏の寿命。毎日出かけるのはサークルかスタジオ、その半分くらいで居酒屋のアルバイト。たまに女の子とデートして、ボコボコに失恋。金もないから友人たちとはもっぱら公園飲み。コンビニで買った安酒片手に友人から笑われて、慰められて、沢山吐いて、沢山泣いて、アゴが筋肉痛になるぐらい笑っていた。起きたら知らない場所にいても何も気にしない。どうせ盗まれる金額も入ってない財布を確認して一安心。この夏が終わったら、なんて考えていない20歳。

そんなもう戻れない夏がある。気づけば僕らは大人になった。数年でさえ経つと、大人というか大人のフリでもしなきゃいけなくなった。もう誰も公園で飲もうとは言い出さないし、地面で寝たりはしない。早く酔いたいからと謎ブランドの安いストロングも選ばない。煙で白くモヤっていたスタジオも今は分煙になった。煙草が吸える、と友人が喜んでいた大学近くの喫茶店はもう跡形もない。たまに思い出しては「アホだったね~」と笑うぐらいの丁度いい思い出たち。それはあの時の振る舞いを思い出してもう選ばないこと。自分を振り返って幼かったなと思えると、ちゃんと大人になっているのかなと感じて寂しくなったりする。

今考えると何故あれほど金欠だったのかも分からない。どんなことでも腹がよじれるほど面白かったのか、涙が出るほど悲しかったのかも分からない。あれから僕の夏はつまらないのか。あの幼い無敵感はいつの間にか無くなった。つまらなくはないけど、あれほどむき出しで大人ぶっていたことさえ愛おしい。今でも会えるけど、きっともう会えない。「なつかしい僕の天使、忘れられるかしてみようか」。この曲を抱えて迎える来年の夏が待ち遠しい。あの頃の大学生たちと会えそうな気がしてならない。


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