物臭な煙草
「煙だけが、昇ってくんだよなァ」
大学生の頃のことである。
友人のアパートで夜を明かした。
未練がましく部屋に残る酒の匂いから逃れるように、ふたりは外へ出た。
頭は痛いし、呼気はまだ昨晩の安酒を記憶している。こうして体は腐っていくのだと思ったが、その思いがかえって煙草に火を付けさせた。この怠惰を代替するものは、存在するのだろうか?
冴えぬ肺では一本の減りも遅いし、眠い頭は何も考えたくないから、自然と空を見上げていた。ピーカン晴れだった。
彼のアパート2階には若い番いが暮らしていて、ベランダには下着ばかりが干されていた。
吐き上げる紫煙は、ちょうどその辺りで役目を終え、何も教えてはくれない。
彼も同じことを考えていたらしい。
「煙だけが、昇ってくんだよなァ」
雲の上の存在とは言うが、雲の下にも手の届かないものがあるし、物臭に朝間をやり過ごそうとする体にはそれが一層やるせない。
煙草の煙は空までは至らないから、なおのこと、自分もそこまで行けそうな気もしてくる。
「ピーカン晴れ」はピース缶の青さに由来するというが、その煙に思いを託し、雲のように青空を漂えるまで、わたしたちは煙草を吸い続ける。
(文・GunCrazyLarry)
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