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前代未聞のうぬぼれ

"Misery" ,The Beatles――

淡い失恋を歌いあげた一曲として鑑賞して良いのだろうが、これがどうも怖い。

歌詞の大意は「あんなにも愛し合ってたのに、どうして僕のもとを去っていったんだ…なんて冷たい世だ! 帰ってきておくれよ!」みたいなことで、実直すぎる吐露に、時代というか、気恥ずかしさのようなものを感じる。

それはまあ、当事者の悲喜交々だから良しなにやってくれ、としか思わないのだが、曲の後半でリフレインする歌詞に、ちょっと待ったを掛けずにはいられない。

Send her back to me,
'Cause everyone can see
Without her I will be in misery

「彼女がいなけりゃ、僕は惨めなんだよ」
彼にとって女性は、スポーツカーや高い腕時計と同じく、マチズモ的なステータスでしかない……!
それを失ったがために、"everyone" に顔向けできない有様を、"misery" と嘆く恋愛観――。
よほど語りつくされた「男のプライド」は、いまや時代錯誤の自意識で、everybody say,  “konna otoko wa iyada”  !!

だがしかし、だ。この若者たちに、俺、嫉妬していないか?    馬鹿みたいな素直さを、俺、欲しがってないか?

草食系という言葉でマスキュリニティを殺した今の日本人の方が、よっぽど「惨め」だし、それを一種のステータスにしている辺り、これは前代未聞のうぬぼれだと思う。

(文・GunCrazyLarry)

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