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『対岸の家事』が発売されます

今日あたりから、新刊『対岸の家事』が書店に並びます。

講談社から新刊を出すのは『駅物語』が出てから6年ぶりです。『わたし、定時に帰ります。』より先にとりかかったのにも関わらず、めちゃくちゃ時間がかかってしまいました。

「そんなものは仕事ではない」と未だに言われる労働、家事をテーマに書きたいと言いだした私に、当時の編集者さんは「駅物語と同じように、昨日まで見ていた世界が、今日からは新しく見える、という話にしてください」と言ってくれました。「講談社が朱野さんにお願いするのはそれだけです」

核となるイメージは決まっていました。主人公は若い専業主婦で、その隣に住むのは時流に乗ったワーキングマザー。その二人が、真夜中の給水タンクに登る。一方は泣いていて、もう一方はそれを静かに見つめている。
二人は、その夜を境に共闘関係を結ぶ。

そのイメージをもとに、『駅物語』でも描いてくださった北極まぐさんが装画を描いてくださいました。彼女たちが給水タンクの上から眺めるその光景は、息を飲むほど緻密で、そして孤独な夜が明ける優しい予感に満ちています。
話が重くなってくると、必ずこの装画を見て、「大丈夫、大丈夫」と自分に言い聞かせていました。(そうです、私の書くのが遅すぎて、装画が先に仕上がってしまったのです……)

自分でやると言いだしたテーマなので、逃げ出すことはできなかったですが、家事、ほんとに書くのが難しかったです。
『駅物語』の次作である、というプレッシャーももちろんありましたが(ゴリゴリありましたが)、何度放り出そうと思ったか知れません。何度も稿を重ねているうちに、辛抱強くつきあってくれた編集者さんも異動になってしまいました。こればっかりは自分の不甲斐なさが情けないです。

でも、交替でいらした編集者さんが、ラストスパートにつきあってくれ、仕事と家事の両立に悩む男性の視点もくれて、おかげで、色んな「岸」にいる人に楽しんでもらえるエンターテイメントになりました。

家事が、「対岸の火事」である人にも、「へー、今はこんななんだ!」と面白く読んでもらえたらいいなと思います。

家事育児完璧系高キャリア男子とのストリートファイトなど、笑えるところも用意してありますので、ぜひぜひ、お手にとってみてください。

『対岸の家事』(講談社のページです)

朱野