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書評:Gaussianプログラムによる量子化学計算マニュアル

読んだ本

新化学発展協会 編、堀 憲次 監修、Gaussianプログラムによる量子化学計算マニュアル 計算入力法から実験値との比較まで、初版第2刷、丸善出版、2010年、120頁.

分野

計算化学、コンピュータ化学、DFT計算、量子化学

対象

Gaussianで特定の計算 (後述) がわからない人

評価

難易度:易 ★★☆☆☆ 難
文体:易 ★★☆☆☆ 難
内容:悪 ★★★☆☆ 良
総合評価:★★★☆☆

痒い所に手が届く一冊

内容紹介

 量子化学計算は、ソフトウェアおよびハードウェア双方の向上により、短時間で精度よく実施できるようになり、適応対象もバイオ、電子材料、光学材料などさまざまな分野に広がっている。 本書は、量子化学計算のノウハウの共有化と計算手法の精密化を目的として、Gaussian新規手法を中心に、研究に有用な方法を取り上げてマニュアルとしてまとめた。さらに、得られた結果の解析法・精度についても詳細に解説。量子化学計算を自らの研究に取り入れたいと考えている研究者にとって貴重な情報源となる一冊。(引用:量子化学計算マニュアル - 丸善出版 理工・医学・人文社会科学の専門書出版社 (maruzen-publishing.co.jp)

感想

当書の立ち位置がわかりやすく書かれていたので、以下に引用する。

本書の特徴は、他の成書ではあまり記されていないが、研究を行ううえで有用な以下に示す計算手法を記述していることにある。
(1) 分子間相互作用エネルギー補正法(Counterpoise補正)
(2) NMRケミカルシフト計算手法
(3) 励起状態計算法
(4) 遷移状態探索手法
(5) ONIOM計算手法
(6) PBC (周期境界条件) 計算法

当書i頁

 即ち、計算を1ミリもわからない初心者が読む本ではないということである。当書では、構造最適化や振動計算といった、基本的な計算の説明は一切されておらず、いきなりCounterpoise補正の話から始まる。であるからして、引用にて示した6つの計算に興味がない人にとって、当書は無価値である。逆に言えば、このような応用的な計算がしたい人にとってはもってこいな一冊と言える。以下に、それぞれの計算についての感想を述べていく。
 まず最初に紹介される計算が「分子間相互作用エネルギー補正法 (Counterpoise補正) 」である。著者の言う通り、Counterpoise補正について書かれた成書は確かにあまり見たことはない。そのため、和書で説明してくれるというのは中々ありがたい。ただ、近年は計算機の性能が向上しており、比較的高レベルな基底関数を使用しやすくなっている。低分子の有機化合物であれば、実験論文にも関わらず、構造最適化にtripleζ、一点計算にquadrupleζ計算を行う論文も見るようになっている。したがって、実験化学者はBSSEを気にする必要はあまりないだろう。
 2つ目は実験化学者が望むであろう「NMRケミカルシフト計算手法」が紹介されている。NMR計算は実験の補助的な役割としても使えるし、天然物の同定にも役立つ場面は多い。ただ、NMR計算法に関しては、私が一押しする計算化学入門書の『有機化学のための量子化学計算入門』にも説明がなされているので、この本でなければいけないというわけではない。3つ目の「励起状態計算法」や4つ目の「遷移状態探索手法」も同様である。当書の初版出版年が2009年であったのに対し、『有機化学のための量子化学計算入門』は2022年なので、同時は希少性の高い情報を扱っていたと言えるが、現在では他にも説明がなされている成書が存在している点には注意する必要がある。ただ、情報は多角的に得たほうがいいので、無駄にはならないだろう。注意点として、「遷移状態探索手法」では、QST2法とQST3法のみを紹介しており、当書のみを参考書として勉強すると遷移状態の算出法がこれしかないと勘違いしがちである。遷移状態算出法に関しては、Eri様が大変ためになるnoteを執筆してくださっているので、以下の記事を参照すべし。

 最後の2つが、「ONIOM計算手法」と「PBC (周期境界条件) 計算法」である。確かにこの2つに関しては、他の成書ではあまり見ることはなく、情報の希少性は2024年現在でも高いと言える。内容の詳細に関しては、私がこの2つの計算を行ったことがないので割愛する。

追記(2024/4/3)
 明言するのを忘れていたが、当書が対象としているのはGaussian 03である。現行では09, 16あたりが主流で使用されているので、情報が少し古い点は要注意である。

購入

初版出版年が2009年と比較的古いが、絶版はしておらず未だに新品を購入できるようである。

参考

  1. 量子化学計算マニュアル - 丸善出版 理工・医学・人文社会科学の専門書出版社 (maruzen-publishing.co.jp)

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